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「つないだ手は離さない」。
ボクサー栗生隆寛を引退まで支えた父の思い (13ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO


 気がついたら始まっていたボクシング人生。気がついたらボクシングにハマっていた。好きになっていた。僕にボクシングを始めるきっかけを与えてくれた父には感謝しきれない」

 引退した粟生へのメッセージを求めると、広幸さんは言葉短かに言った。

「ありがとう。よくがんばったね」

 最後に、粟生が高校時代に腕相撲をして手心を加えたエピソードを広幸さんに伝えると、「あの頃はまだ力仕事をしていたし、まだ私のほうが強かったと思っていました」と笑った。

 ただ、まだまだだな、とばかりに、父に勝ちを譲った息子に語りかけるようにこう続けた。

「遠慮せず負かせばよかった。あいつと過ごしたどの時間も、忘れがたい思い出ばかりです。世界チャンピオンになった瞬間は、もちろんうれしかった。ただ、同じくらい忘れられないのが、高校を卒業して帝拳ジムへ入門した日のことです。

 もちろん、ボクサーとしても社会人としても、まだまだ半人前でした。ただ、あの日が、隆寛が独り立ちした日。ああ、大きくなったなと、うれしさと寂しさがないまぜになった感情は、今も忘れられません。

 子が親を超えていくこと、自分の足で立てるようになること。うれしくないわけないじゃないですか」

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