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「つないだ手は離さない」。
ボクサー栗生隆寛を引退まで支えた父の思い (11ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO


「反射速度、確実に遅くなっていました。間違いなく衰えが始まっていた」

「やめておけ」と言葉が何度も溢れそうになったが、広幸さんはその言葉を飲み込む。

「ニュースを聞いた翌日から練習を再開したんです。懸命にトレーニングする姿を見ていると『辞めろ』とは言えませんでした」
 
 昨年、広幸さんは還暦を迎える。すると、粟生が銀座の寿司屋に誘い、ふたりきりで食事をすることになった。

 粟生が、少し照れ臭そうに言った。

「ふたりともアルコールが得意じゃないってこともあるんですが、この日、初めて親父とお酒で乾杯しました。ニガッと思ったんですが、なんか今日くらいはと思って、1杯だけですけど飲み干しました」

 乾杯のあとはたわいもない会話が、とりとめもなく続いた。ボクシングの話は一切しなかった。

 年が明け2020年1月、粟生は父に電話を入れる。

「もういいかな、と思ってる」

 察した父は短い言葉を返した。

「お前の好きにすればいい。無事で終えてさえくれれば、それでいい」

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