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「つないだ手は離さない」。
ボクサー栗生隆寛を引退まで支えた父の思い (12ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO


 そして4月、粟生は引退を決心したことを父に告げる。

 返事はひと言だった。

「そうか、わかった」

 粟生の現役最後の試合となったのは、2018年3月の対ガマリエル・ディアス(メキシコ)戦。父だけでなく、本田(明彦)会長もまた粟生の衰えに気づいていた。ディアス戦後、粟生は幾度となく「試合をさせてほしい」と頭を下げても、会長は「何に関しても協力するが、試合に関してだけは協力できない」と首を縦に振ることはなかったからだ。

 4月6日、粟生はSNSのライブ配信で引退を発表。この日は粟生の36歳の誕生日だった。

「僕が世界チャンピオンになれたのは、父の協力だけでなく、ものすごい周りの人のサポートがあったからです」

 そして、続ける。

「結果論かもしれませんが、チャンピオンになれた、なれないは関係なく、ボクシングをやってよかったと心から思います。多くの出会いも、経験も、味わえた充実感も、全部ボクシングと出会えたからこそ。引退した今、あらためて本当にやりたいことをとことんやれたんだと感じます。

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