「つないだ手は離さない」。
ボクサー栗生隆寛を引退まで支えた父の思い (7ページ目)
「情けなくて泣きました。ホームアドバンテージ!? 一瞬でもそんなことを思った自分が恥ずかしくて泣きました」
息子のプロ初の敗戦を客席から見ていた父は、「爆発力というか、野性味のようなものがない。性格が優しすぎるのが弱点なのかもしれない」と振り返る。
もちろん、それは粟生本人もわかっていた。
「殴られた瞬間、『この野郎!』と殴り返せる選手の試合を見て、無い物ねだりじゃないですけど、うらやましく感じてました。そういう本能的なスタイルに、見ている人は惹かれるし、華を感じる。
ただ、同時にカッとなって前に出るのはリスクを負うことになる。相手の誘いに乗ってしまうことにもなるんで。
僕はカッとなる前に、『なぜ相手のパンチが当たったのか?』と考えてしまう。ボクシングをよりスポーツとして捉えていたんだと思います。パンチを当てる・避ける技術をリング上で競う競技だと。
何よりファイタータイプに憧れがあっても、スタイルを変えることで、積み上げてきた今のボクシングが壊れてしまうかもしれないという恐怖が強かった」
7 / 13