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リングを去る心優しき王者・内山高志。
笑ってさよなら、涙はいらない (3ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO

 どうか誤解しないでほしい。内山高志というボクサーの物語は、凡庸なボクサーが、努力の果てに掴み取った栄光の物語であったことを。

 高校1年でボクシングを始めた内山は、すぐに気づく。

「センスもパンチ力もない。俺は凡人」

 一緒に始めたはずの同級生のなかには、自分より上達の早い者がいた。自分よりパンチ力がある者も大勢いた。内山は「俺には何もない......」と悟ったと、当時を振り返る。謙遜ではない。内山は高校時代、50戦して13敗も喫している。全国大会に初出場したのも、高校3年になってからだ。母校・花咲徳栄高校での恒例の挨拶についても、内山は内心こんなことを思っていた。

「練習の最後に、『目指せ日本一!』と部員全員で言うんです。何百回、何千回と言ったと思うんですけど、高校時代、本当に日本一になれると思ったことは一度もなかった」

 名門・拓殖大学に進学したことも「運がよかっただけ」と本人は語る。

 そして入学直後、内山は大きな挫折を経験する。精鋭揃いだった同期が入部直後からレギュラーや補欠に選ばれるなか、内山が試合中に任されたのは、部員の荷物番だったのだ。

 白熱する試合会場の片隅、内山は部員の荷物の中心で体育座りしながら悔しさを噛み締めた。しかし、流した涙も、その悔しさも、ひとときの感情として終わらせはしなかった。

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