リングを去る心優しき王者・内山高志。
笑ってさよなら、涙はいらない (2ページ目)
37歳という年齢もあるだろう。ケガも、モチベーションの維持が困難なこともあるだろう。辞める理由はいくつも浮かぶ。内山自身は、会見で引退を決意した理由のひとつは、「果たして、前以上に強くなれるか」と、初めて懐疑心を抱いてしまったことだと語った。その言葉に、きっと全国の内山ファン、ボクシングファンは思ったはず。「前以上ではなくても、あなたは十分強いじゃないか」と。
しかし、そんな願いにも似た、現役続行を望むファン心理をなだめるように内山は続けた。そしてそこに、内山高志というボクサーが愛された理由のすべてが詰まっていた。
「必死に努力してお客さんに試合を見てもらうことがモットー。練習で100%出せず、中途半端で試合に臨んだらウソになる」
引退という決断が、もはや揺るがないことは明白だった。
内山高志はブレない――。
以前、「強さとは何か?」と抽象的な質問を内山にしたことがある。彼は迷わず、こう答えている。
「自分の信じたことを、周囲の意見や世間の空気に流されたり、屈せず貫き通せるか。ボクシングが強いかどうかなんて、強さとはまったくの別もの」
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