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リングを去る心優しき王者・内山高志。
笑ってさよなら、涙はいらない

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO

 7月29日、午後4時――。元WBA世界スーパーフェザー級チャンピオン、内山高志が会見を開いた。引退か? 現役続行か? 「ノックアウト・ダイナマイト」の決断を確かめようと、多くの記者が会場に集まっていた。

11度目の防衛を果たした際、観客に笑顔で応える内山高志11度目の防衛を果たした際、観客に笑顔で応える内山高志 会見予定時刻、ちょうど。内山高志が姿を現した瞬間、詰めかけた記者たちは悟った。晴れやかで、それでいて優しさを帯びたその表情は、一縷(いちる)の望みをかき消すのに十分だった。某スポーツ紙が報じていた『内山、現役続行』が誤報であることを、あの場にいた誰もがその表情を見た瞬間に察したはずだ。

 マイクを握った内山は、淡々と語り始める。

「大晦日の試合が終わってから、だいぶ長く進退のほうを、ファンの方や記者の方に報告が遅くなってしまいました。僕の気持ちは......」

 ここまでひと息で話すと、駆け抜けた日々が脳裏を過ぎったか、1~2秒の間ができた。その目がわずかに赤みを帯びたように見えたのは、気のせいではないはず。それでも内山は、恋々とする想いを断ち切るように、ふたたび語り出した。

「......今日で引退することを決めました。本当に今まで応援していただいたファンの方、記事にしていただいた記者の方、本当にありがとうございました」

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