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【ボクシング】1年ぶりの勝利。長谷川穂積の「俺にしか紡げない物語」が始まった (4ページ目)

  • 水野光博●文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • 矢野森智明●写真 photo by Yanomori Tomoaki

 控え室は、長谷川の声を拾おうと、詰め掛けた報道陣でごった返していた。

「まずは、ほっとしました。でも、アップから硬かった。まるでデビュー戦のように。いろんなしがらみ、求められる結果を背負ってしまった。練習でやったことが、5%くらいしかできなかった。でも、次はやれると思う」

 そして、控え室にいる誰もが聞きたかった核心に触れた。

「次戦については、これから考えたい」

 明日ではない、今日を生きる男に、それ以上、未来の話を聞くのは野暮だ。

 控え室のテレビが、防衛戦に挑むWBC世界バンタム級王者・山中慎介の入場を告げる。

「みなさん、始まりますよ」

 長谷川がそう教えると、報道陣はいっせいに控え室を後にした。

ライルズが壁際にたたずんでいる。トレーナーに聞きたいことがあった。彼が常に長谷川を、「チャンピオン」と呼ぶことについて。

「2度もチャンピオンになった男だから」

 そして、ウインクしながら、こう続けた。「それに、次の試合で再びチャンピオンになる男だから」

 報道陣がいなくなった控え室。今は、その腰にベルトを巻かない男に、ひとつだけ聞いた。

「長谷川穂積は、強かったですか? 弱かったですか?」

 即答だった。

「弱いです。練習でやったことが出せない。つまり、それは弱い」

 ただ、それは最終結論ではない。それどころか、再び頂を目指す決意表明にすら聞こえた。

「今日の試合内容では、喋れなかったです。神様とは」

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