【柔道】覇気なし、運なし、力なし......。鈴木桂治ら3候補惨敗で五輪に暗雲

  • 松瀬学●取材・文 text by Matsuse Manabu
  • photo by Kitamura Daiju/AFLO SPORT

全日本選手権前回優勝の鈴木桂治は準決勝で敗退。さらに右肩を負傷してしまった全日本選手権前回優勝の鈴木桂治は準決勝で敗退。さらに右肩を負傷してしまった
 ロンドン五輪を考えると、悪夢のような一日だった。五輪候補がドタドタドタと倒され、エース格の鈴木桂治(国士舘大専任講師)にいたっては右肩のケガまで負ってしまった。絶対の実力もなければ、覇気もない。情けない。

「はぁ......」。男子代表の篠原信一監督が紺色のハンカチで額の汗をぬぐいながら、何度も深いため息をつく。そりゃそうだ。準決勝敗退の鈴木だけでなく、ロンドン五輪の100kg超級代表の座を争う上川大樹(京葉ガス)と高橋和彦(新日鉄)にいたっては準々決勝で敗退したのだ。

「何をやっているのか。本当にがっくりです。たとえ調子が悪くても優勝しないと......。もうちょっとしっかりした試合をしろよ、と言いたいですよ」

 4月29日の日本武道館。ロンドン五輪の男子重量級の代表選考会を兼ねた全日本選手権である。準決勝の鈴木×石井竜太(日本中央競馬会)。開始直後。組んだ瞬間、内またを受けた鈴木の体がどんと畳に落ちた。

 一本を避けようと右手をついて体をひねったため、鈴木の右肩が135kgの石井の下敷きとなった。「技あり」。悶絶する。右手に力が入らない。左手一本で試合を再開しても、痛みで何度もうずくまる。そのたびに「指導」を受け、1分32秒、とうとう3度目の指導で「総合勝ち」を相手に与えてしまった。

 もう31歳。2004年アテネ五輪金メダリストも全盛時に比べると力の衰えは隠せない。冬、古傷の左ひじの手術にも踏み切っていた。篠原監督は手厳しい。

「桂治も投げられてケガをしている。問題はここです。結局、投げられなかったら、ケガをすることはなかった」

 敗戦の悔しさか、ケガの苦痛か。顔をゆがめ、手で目頭を押さえる。畳を下りると、涙があふれた。選手控え所の長いすに寝転がって道着をはだけると、右肩の鎖骨あたりが真っ赤にはれ上がっていた。

 そのまま病院に直行した。診断の結果は「右の肩鎖関節脱臼」。通常なら全治には数週間を要する。広報を通し、短いコメントを出した。「こんな形で全日本選手権が終わってしまい、申し訳ありませんでした」

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