「錦織圭引退」の誤報はなぜ生まれたのか 現地ジャーナリストが大会主催者に取材して見えた騒動の舞台裏 (2ページ目)
【セレモニーは用意されていた】
しかし、これらの情報は結果的に、不正確な憶測だったことが明らかになる。ワイルドカードで出場した錦織は、初戦でニコラス・キッカー(アルゼンチン)相手に質の高いプレーを披露し、2セットで快勝。引退の噂は、噂に過ぎないことを自ら証明した。
「一試合一試合に集中するだけ。コートに立てるすべての時間を楽しみ、ベストを尽くすことだけ考えている」
キッカーに勝利し、2026年シーズン通算4勝目を挙げた錦織は、そう語った。
迎えた2回戦で錦織が対戦したのは、第1シードで世界115位のウー・イービン(中国)。結果は激しい攻防の末、3-6、6-3、1-6で錦織が敗れた。2023年にツアー優勝し、中国男子テニス界のパイオニアともいえるウーは、次のように試合を振り返っている。
「今日は風が強く、そのなかでもお互いに攻撃的なテニスをした。最後は、自分のほうが圭よりも少し我慢強く戦い、攻めるべきチャンスを待てたと思う」
さらに彼は、錦織が自身に与えた影響についても、次のように言及した。
「子どもの頃から、圭の試合動画をたくさん見てきた。圭が決勝に行った2014年の全米オープンや、東京でのツアー大会(ジャパンオープン)で優勝した試合。それにバルセロナオープンも。彼がアジアのテニス少年たちに与えたインパクトは、測り知れない。もちろん、僕もそのひとりだ」
なおこの試合後、オンコートインタビュアー/アナウンサーのレイ・コリンズは、ウーへのインタビューに入る前に錦織へマイクを向け、「ファンに何かメッセージを」と促した。
しかし、錦織は「No, thanks(けっこうです)」と返答。さらにマイクを手渡そうとしたコリンズに対しても、再び丁寧に「No」と辞退した。インタビュアーのこの行為は、錦織に引退表明の機会を与えるためだろう。
加えて大会運営者は、地元アーティストのホルヘ・ブランコに錦織圭の姿を模したトロフィーの制作を依頼していた。実際にブランコはすでに緑色の錦織像を作り終え、大会に納品している。大会側が何かしらのセレモニーを用意していたのは間違いなさそうだ。
実際には、錦織本人が否定したことで、引退の噂は誤りだったことがはっきりした。『レキップ』紙も後日、引退報道は誤報だったとして記事を取り下げている。大会が用意したトロフィーは錦織に手渡せなかったため、会場から8kmほど離れた彼の自宅に郵送する案も検討されているそうだ。
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