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土居美咲が語る、引退ラストゲームに訪れた幸運「これ以上ない、本当に最後のご褒美でした」 (5ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

 こんなうれしいことないわって思ったけれど、でもね、やっぱり試合に挑むからには勝ちに行く姿をみなさんに見せたいなと思ったんです。だから立ち上がりから、めっちゃ飛ばしました。

 ファーストセットで飛ばして、『セカンドセットは戦えなくなりました、すいません!』でも、それはそれでいいかなと思っていたんです。そしたら勝てて、しかも2回戦はサッカリ。すごくいい選手だったし、人間的にもすばらしい人でした」
 
── サッカリのボールは重かったですか?

「やっぱり重かったですね。重かった。でも、それが......うれしかった。 強い相手と戦えて、最後はウイナーを決められて......」

── 理想の終わり方?

「絶対にそうです! あれ以上ないです。いやぁもう、本当にバスッと決めてくれて、ありがとうって感じです。もうちょっと耐えたかったけれど、トップテン選手のボールの重みを感じながらの最後だったので、最高ですね。

 最高じゃないですか? これ以上ない、本当に、本当の最後のご褒美でした」

「悔いはない?」

 いささか不躾なその問いに、「なーい!」と明るい声で彼女は応じた。

 この先に何をするかは、まだ決まっていないという。ただ、ラストマッチ後の会見で、彼女は「テニスの魅力」を問われ、次のように答えている。

「特に今回感じたのは、こうやってお客さんと一体になれること。これだけたくさんの人と喜びを共有できるのは、すごくすばらしいスポーツだなと思います」

 そう言うと、彼女は会見室を見渡しながら、こう加えた。

「なので、これからテニスのすばらしさを、みなさんに伝えてもらえたらうれしいです」......と。

 これは我々が、彼女からもらった宿題。ただ、近い将来にきっと、彼女が投げかけたこの命題に、彼女自身も取り組んでいくに違いない。

 多くの人々をつなぎ、喜びを共有してきた彼女の「幸福なテニス人生」は、まだまだ続いていくのだから。

(後編につづく)

◆土居美咲・後編>>「20歳の冬、日本テニス界から見放され、海外に生きる道を求めた」


【profile】
土居美咲(どい・みさき)
1991年4月29日生まれ、千葉県大網白里市出身。6歳からテニスを始め、2008年12月に17歳8カ月でプロ転向を表明。2015年10月のBGLルクセンブルク・オープンでWTAツアーシングルス初優勝を果たす。2016年のウインブルドンでは初のグランドスラム4回戦進出。オリンピックには2016年リオと2021年東京の2大会に出場。2023年8月に現役引退を発表。WTAランキング最高30位。身長159cm。

著者プロフィール

  • 内田 暁

    内田 暁 (うちだ・あかつき)

    編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。2008年頃からテニスを追いはじめ、年の半分ほどは海外取材。著書に『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)、『勝てる脳、負ける脳』(集英社)など。

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