ロシアのウクライナ侵攻にテニス界も大揺れ。ウインブルドン出場が政治的な意思表明につながる危険 (2ページ目)
差別廃絶を理念に掲げるWTA
今回、ATPおよびWTAがウインブルドンにポイントを与えないのは、その通貨を用いたある種の「経済制裁」だとも言える。
今年4月下旬、AELTCはロシアのウクライナ侵攻を受け、今年のウインブルドンにロシアとベラルーシ選手の出場を禁ずると発表した。それに対してATPとWTAは、即座に強い遺憾の意を表明している。
とりわけ、あらゆる差別廃絶を組織の創設理念に掲げるWTAには、その意識が強い。かくして冒頭に触れたように、WTAとATPは先日揃って今年のウインブルドンにポイントを付与しない決断を下した。その際にWTAは「平和の実現をなにより願う」と前置きしたうえで、次のような声明を出している。
「WTAは約50年前に、すべての人々が一切の差別を受けず競えることを理念に創設された。個人として参戦する選手が、国や政府の決断に影響を受けてはならないと信じている」
同じくATPも、「あらゆる国籍の人々が利潤を求め、いかなる差別も受けずに参戦できることが、我々のツアーの理念である」と続いた。
これら一連の決定は、当然ながら、あらゆる選手たちにさまざまな形で影響を及ぼしている。
純粋に、ポイントとウインブルドンが有する威光や賞金を天秤にかけ、判断材料とする選手もいる。大坂なおみ(24歳)は「ランキングが上がらないならモチベーションは上がりにくい」と言い、「出ないほうに心は傾いている」と欠場を示唆。一方、フランスのブノワ・ペール(33歳)のように、ポイントなしの決断に怒りを露わにするも「賞金があるから出る」という選手もいる。
ただ、今回のケースが難しいのは、ウインブルドンへの出場・不出場の表明が、政治的な意思表明にもつながりかねない点だ。
その意味で難しい立場に立たされたのが、女子世界1位のイガ・シフィオンテク(20歳)である。ポーランド出身の彼女は、ウクライナ支持の声を最も公(おおやけ)に上げてきた選手だ。ただ、"WTAの顔"としては同団体の決断をあからさまには批判しづらい。
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