伊達公子が日本テニス界に切実な危機感。「変えるなら今。これがラストチャンス」 (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • 是枝右恭●撮影 photo by Koreeda Ukyo

 実は、プロジェクトを立ち上げた当初は、第一期の終了後に長いキャンプを設けるとか、コーチを派遣して2〜3大会連続の遠征に選手を連れていくことも話し合っていたのです。いずれもコロナ禍で実現できなかったんですが......」

 ジュニア育成について語る時、伊達は「自分には指導の経験がない」「常に気づきがある」などの言葉を繰り返した。伊達ほどに、選手として大成した実績があるのなら、その経験を伝えればいいという訳にはいかないのか?

 そんな安易な疑問を投げかけると、元世界4位は「いやいや、そういう訳にはいかないですね」と言下に否定した。

「今、毎日コートに立っていると、『小浦(猛志)さんってすごかったな〜』ってあらためて思います。あの忍耐強さといい、勉強熱心さといい、アイデアといい......いろんな意味ですごかったんだなって。

 やっぱり、私が『すごいコーチ』と言って真っ先に思い浮かぶのは、小浦さんだけ。まだまだ長生きしていただかないとって、本人にも直接言ったばかりなんです」

 伊達が師と仰ぐ「小浦さん」とは、フェドカップ監督等を歴任し、浅越しのぶや、さかのぼれば沢松和子らをも指導した名伯楽。情報入手が困難だった時代に、世界のトップ選手たちが実践している練習やトレーニング法を調べ、それらを独自の手法にアレンジするアイデアマンとしても有名だ。世界を慄かせた伊達の"超ライジング打法"も、小浦氏との取り組みで生まれた唯一無二の武器にしてスタイルである。

 小浦氏の薫陶を受け、今は自ら育成に情熱を注ぐ伊達なら、第二の伊達公子を育てられるのでは? その問いに返ってきたのが、冒頭の苦渋の言葉だ。

「その答えは、小浦さんに聞いたほうが早いのかも。答えはひとつではないと思うんです。あの時代のほうがよかった部分もあるのかもしれない。指導者の力もそうだし、選手の力もそうだし、ハングリーさは昔のほうが強かったという見方もある。

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