錦織圭と父との愛情物語。
25年前の「プレゼント」と息子への願い (2ページ目)
「でも、テニスなら、一緒に子どもたちと遊んでやれるよな」
そんな思いに導かれ、ふたりの子どもにラケットを手渡した。圭が5歳、姉が9歳の時である。
「圭の負けず嫌いは、想像を絶するものがある。だからこそ、テニスは彼にとって楽しいものでなくてはならないんです」
清志さんからはこの言葉を、一度ならず聞いてきたように思う。
テニスを楽しむ心----。それは、ラケットとともに父が息子に授けた、最大のプレゼントだったかもしれない。
つらくなって止めるようなことなく、ずっと楽しく続けて欲しい......。
父がそう強く願った訳は、自身のほろ苦い経験にも根ざしている。
野球少年だった清志さんは、地元の少年野球団で3、4番を任されるチームの主力だった。しかし、中学に進学して野球部に入ると、頭を丸め、来る日も来る日も球拾いだけをさせられる。
「なんて無駄な時間を過ごしているんだろう......」
自尊心も傷つけられ、入部から3カ月ほどして、耐えられずに部を去った。だが、その時に味わった挫折感や「俺は根性がないのかな」という自責の念は、しばらく消えなかったという。
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