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噛み合わない歯車。4年前を思い出させた錦織圭の全仏 (4ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki   photo by AFLO

 ただ、完全に錦織優勢に思われた第3と第4セットでも、見落としてはいけない箇所があった。錦織は、いずれのセットも唯一のブレークポイントをモノにし、逆に両セットとも3本のブレークポイントをしのいでいる。勝負強さと言ってしまえば、それまでだ。ただ、ツォンガのプレーそのものが崩れていたわけではなかったのだ。

 最終セット、サーブに集中したツォンガは、1本もブレークポイントをくれなかった。逆に2本目のブレークポイントで、ネットにつめる勇気を見せて錦織のミスを誘った。スタジアムを埋める1万4千人のファンは熱狂し、「ジョー」の名を叫ぶ。スタジアムの外でモニター映像を見るファンたちの歓喜の叫びも、実際のプレーに数秒遅れて聞こえてくる。

「(最終セットは)サーブをまったく取れなかった。集中力を上げてきたのは、彼の強さ」

 錦織は素直に、勝者を称えた。

 きっとこの一戦は、錦織の心に小さな棘を残すことになるだろう。「こんなに自分を見失ったのは久しぶりで、ショックな部分もある」とも、試合後に彼は言った。

 経験……と、ひと言で片づけてしまうのは、あまりに安易かもしれない。だが錦織は、悔いの記憶を克服することで、才能だけでは決して到達できない高みまで到った選手だ。同時に、いつまでも敗戦にとらわれている暇も、テニス選手にはない。

 「少し休んで、グラス(芝)に向けていい準備をしていきたいです」

 痛みを経験値に変えて、錦織圭は新たな季節に向かっていく――。

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