2015.06.03

噛み合わない歯車。4年前を思い出させた錦織圭の全仏

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki   photo by AFLO

 数カ月前のことである――。結果を問わず、錦織圭に印象や思い出に残っている過去の試合をいくつか選んでもらった時、意外な一戦を挙げて、思わず「えっ」と驚いたことがあった。

試合後に錦織圭は「自分を見失っていた」と語った 2011年の全仏オープン2回戦、セルゲイ・スタコフスキー(ウクライナ)に1-6、6-3、3-6、6-7(3-7)で敗れた一戦だ。当時、スタコフスキーは世界ランキング36位。錦織よりランキングは上であったが、サーブ&ボレーを得意とし、「芝の選手」という印象が強かった。

「勝てる相手だと思っていたんですけれど、この時はほとんど、彼は前に出てこなくて。相手のプレースタイル、(バックハンドの)スライスに対応できなくて、ほぼ何もできずに負けた……。『こういう相手に勝てないんだ』と、心にグッときたことを覚えています」

 選手の心理とは、実に微妙で繊細だ。何百という試合を戦い、その中で錦織はいくつもの勝利も、敗戦も、過去として置き去っているにもかかわらず、記録上はさして目立たないこの一戦が、彼の心には何らかしらの棘(とげ)を残していたのだから。

 今年の全仏オープン準々決勝、ジョー=ウィルフリード・ツォンガ(フランス)戦――。

 この試合を見ながら、「スタコフスキー戦を覚えている」と言った錦織の言葉が思い出された。もちろん、4年前の錦織と今の彼では、比べるべくもないほど実力が上がっている。対戦相手も、グランドスラムで5回のベスト4以上を経験している、強打自慢の真のトッププレーヤーだ。