あの時。錦織圭がM・チャンに洗脳された瞬間 (2ページ目)
『錦織圭が変わった瞬間』――。
実は、先に専門誌の企画でも同じテーマをいただいた。違う話を書けば矛盾することになるが、専門誌のほうでもひとつに絞れず、迷いに迷ったので、ここでは別の話にする。同じテーマなのにおかしいじゃないかなどと突っ込まないでほしい。
手術明けの準備不足の中でグランドスラム・ファイナリストとなった錦織圭。 2014年8月26日、全米オープンの1回戦。その3週間前に足指の手術をした錦織がどういう状況であの大会を迎えたかという経緯は、今や日本の誰もが相当詳しく知っているのでここでは省く。ただ、練習がまったくできていない状態でグランドスラムを迎えたのは、腰を痛めていた3カ月前の全仏オープンのときと同じだった。
全仏では1回戦で世界ランキング59位のマルティン・クーリザン(25歳。スロバキア)にストレート負けしている。大会前にやるべき準備をしなかったという不安が、どれほど選手の技術と士気に影響するのかを、まざまざと見せつけられた。緻密な計画と実践に支えられて迎える"その日"の重みを、敗れ去る錦織の姿から知ったのだ。
全米でも同じことが起きるものだと、諦めていた。だが、その予想は見事に覆(くつがえ)された。開幕前の覇気のない様子は、全仏のときと同様に見えたにもかかわらず、1回戦でストレート勝ちすると、錦織は「自分でも驚くくらい調子がよかった。本当にびっくりしています」と息を弾ませた。世界ランキング176位のウェイン・オデスニク(29歳。アメリカ)は、確かに全仏のときよりも恵まれた相手だったが、運だけであったはずがない。
マイケル・チャンコーチが、自身の経験談を聞かせてくれたという。
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