あの時。錦織圭がM・チャンに洗脳された瞬間

  • 山口奈緒美●文 text by Yamaguchi Naomi
  • 真野博正●撮影 photo by Mano Hiromasa

密着ライターが感じた「2014年、錦織圭が変わった瞬間」(2)

 1999年の全米オープンから、これまですべてのグランドスラム(全豪オープン、全仏オープン、全英オープン、全米オープン)の取材に行った。ウインブルドンはともかく、その他の大会などは帰国しても「何か(テニスの大会)やってたの?」と言われるくらい、日本ではテニスの人気が低迷。大会中に仕事の依頼がほとんどないときもあった。

 それでもテニスの世界は刺激的で楽しく、少々しんどくても取材し続けてきた甲斐あって、ロジャー・フェデラー(33歳。スイス)の、17回のグランドスラム優勝をすべて見ることができた。テニスに携わる人間にとって、これ以上の幸運はありえないと思ったものだ。

※世界ランキング2位(12月17日現在)。史上最長となる302週世界ランキング1位という記録を持つ。ウインブルドン5連覇、通算7回優勝(2003年~2007年、2009年、2012年)、全米オープン5連覇(2004年~2008年)。全豪オープン通算4回優勝(2004年、2006年、2007年、2010年)、全仏オープン優勝1回(2009年)

 だが、「それ以上」を可能にするものが現れた。

 錦織圭――彼が、日本人史上初のグランドスラム優勝、いや、決勝に進むだけだとしても、それがもし叶うなら、日本人としてはフェデラーの17回の優勝を見たこと以上の出来事になるに違いない。

 そんな希望を見つけ、さてフェデラーが引退してからどれくらい待てばいいだろうか、と考えた。フェデラーがいなくなって、ノバク・ジョコビッチ(27歳。セルビア/世界ランキング1位)や、ラファエル・ナダル(28歳。スペイン/世界ランキング3位)も、そろそろ落ち目になる頃と言えば、早くて5年先か......。

 それが、フェデラーが引退どころか、まだバリバリに優勝を狙える間に訪れたのだ。しかも、直前にいくつかの媒体で「今回の錦織に期待するのは酷だ」などと書いてしまった大会で。見る目がないと言われればそれまでだが、私自身が見る目のなさを恥じた瞬間が、錦織の変化を感じた瞬間だったのかもしれない。それも、今にして思えば、なのだが......。

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