錦織圭の転機は、全米OP準優勝の2週間後に訪れた (3ページ目)
チャンの存在に目を向けるまでもなく、このマレーシア・オープンの持つ重要性を誰よりも深く理解していたのは、当の錦織である。グランドスラム準優勝の達成感に加え、その後、急激に増えたマスメディアへの対応やイベント等の出演……、それらに追われた2週間を経た後にコートに立つ難しさを、彼は否定しなかった。
「気持ち的に葛藤がいろいろあるのかなと思っていたけど、やはりありました。(全米オープンで)準優勝しているので、ひとつ何かうまくいかないと、『こんなはずじゃない』と思ったり、良い結果を出して自信を得た半面、どこか過信する部分もあったり……」
マレーシア・オープンで準決勝進出を果たした後、錦織は周囲の「当然」の視線の裏に浮遊する葛藤を、ポツリポツリと吐き出した。だが彼は、そんな自分の現在地から目をそらさず、種々の想いが渦巻く自身の胸中に向き合った上で、こう言った。
「全米のことはなるべく忘れて、あまり充実感に浸り過ぎないように。この先の数大会が特に重要になるので、気持ちをすっかりゼロに戻そうと思っているし、それができていると思います」
確たる覚悟で臨んだマレーシア・オープンの道は、自分との戦いであり、息苦しい高みであった。準決勝の対ヤルコ・ニエミネン(フィンランド)戦では、第1セットを先取するも、第2セットを追い上げられて奪われた。守るモノが大きくなった錦織に対し、挑戦者である対戦相手には、失うモノがない。錦織が戦ったのは、そのような立場の変位に伴うプレッシャーの偏向でもある。
決勝戦のジュリアン・ベネトー(フランス)戦でも、キャリア初のタイトルを死に物狂いで奪いにくるベテランの気迫に、立ち上がりは圧倒された。「これは負けるかも……」。心をむしばむその疑念を押しとどめ、「いつかは相手のパフォーマンスも落ちるはず」と信じて嵐が過ぎるのを根気強く待ち、何度もチャンスを逃してもなお、「たとえゲームは取れなくても、相手にプレッシャーを掛けられるはず」と自身に言い聞かせ、戦い続けた。
3 / 4