2014.08.23

全米オープン直前。錦織圭がつけなかったウソ

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki photo by AFLO

 錦織圭というアスリートは、基本的にウソがつけない人なのだと思う。テニスコートの上では、あんなにも容易に相手の裏をかくプレイを見せるのに、会見の席になると話は別だ。

ぶっつけ本番で今年最後のグランドスラム、全米オープンに挑む錦織圭 全米オープンの開幕を3日後に控えた8月22日(現地時間)、錦織は大会開催地のニューヨーク市内で、会見の席を設けた。約3週間前、右足の親指裏にできた膿疱(のうほう)の摘出手術を施行し、出場が危ぶまれていた今季最後のグランドスラム。それでも錦織は21日に現地入りし、22日には会場で練習姿も披露している。会見は現状報告とともに、大会出場の意気込みを語る席かと思われていた。

 実際に会見では当初、錦織はケガに関する問いに対し、「決断には迷いがあったが、やはり全米オープンには出たい気持ちが強く、チャンスにかけることにしました」「とりあえず1回戦を戦って、調子を上げていくしかない」など、出場を前提にした答弁を行なっていた。だが、「出場を決めたのはいつか?」という直接的な質問を向けられた時、彼は、ごまかしの言葉を口にできなかったのだろう。胸の内の戸惑いが、みるみる表情に映し出される。少し間を置いてから錦織は、「正直、まだ出場も決めてないので……。試合ができるかどうかも、当日にならないと分からないです」と素直に認めたのだった。

「もちろん出るつもりで準備はしているし、ここに来ている以上は、どうにか治して出ようと思っています。ただ、痛みがぶり返したら、満足いくプレイはできないので……。目標も、とりあえず1回戦を戦い抜けるかというところです」

 それが、錦織の「正直な」現状である。

 1年の間に20〜30の大会に出場し、世界各国の街から街、コートからコートを転戦するテニスの世界は、実にシビアだ。年間スケジュールを「ツアー」と呼ぶのは言い得て妙で、選手にとっては旅こそが日常であり、生活の基盤。旅の中で試合をし、練習をし、食事を取り、そして眠る——。世界トップのアスリートと言えども、決して超人ではない。普通の人々の日常に病気や不慮の出来事が付きもののように、選手たちもツアー中には、様々な日常的要因に悩まされもする。