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全米オープン直前。錦織圭がつけなかったウソ (2ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki photo by AFLO

 錦織が今回不運だったのは、彼が患(わずら)った膿疱は、試合や練習中に突発的に負ったものでなく、手術で除去せざるを得ない状況に達したのが、全米オープンの直前だったということだ。

 実は錦織が、最初に異変の兆候を感じていたのは、今年に入ったばかりのころだったという。

「いつもはできないマメが、できているな......」

 最初は、その程度の気がかりが心に引っかかるだけだった。だがやがて、それは痛みに変わる。「半年くらいは痛みを抱えながら」続けていたが、「この2カ月くらいで急に増してきた」のだと錦織は明かした。

 そして約1カ月前のワシントンDC大会で、その痛みは動けないほどに達する。そこで改めて精密検査を受けたところ、膿(うみ)がたまっていることが判明。時期が時期ではあったが、「この痛みのままでは満足のいくプレイができないので、取り除くことにした」というのが、現在に至る経緯だ。テニスの試合が四大大会だけなら、大がかりな治療や調整の目処も立てやすいだろう。だが実際、この世界には四大大会にひけを取らぬクラスのトーナメントも、ごろごろと存在する。今回の全米オープン直前のアクシデントは、ツアーという非日常的な日常の中で、偶発的に勃発したものだ。

 ツアーの過酷さということで言うと、奇しくも今回の会見で、錦織の興味深い発言があった。地元の邦人誌の記者による「ニューヨークでは、どのような場所で何を食べるか?」という問いに対し、錦織は次のような言葉を残したのだ。

「ツアーではリラックスできる時間がない中、食事が一番リラックスし、モチベーションを上げられる部分。なので、できるだけ美味しいところを回るようにしています」

 選手たちは慌ただしすぎる日々の中で、なんとか気持ちを切り替え、盛り上げる要素を見いだそうとしているのだ。

 そしてもうひとつ、ツアーの孤独を軽減し、モチベーションを否が応でも上げてくれるものがある。それが、ともにツアーを回り、切磋琢磨していける仲間の存在だ。テニスの世界では、ノバク・ジョコビッチの台頭によってセルビアがテニス大国になったり、ロジャー・フェデラー(スイス)の背を追って世界で戦ってきたスタニスラス・ワウリンカがグランドスラム(2014年・全豪)を制するなど、同国の選手間での相乗効果が間違いなく存在する。錦織も、ツアーを一緒に転戦できる仲間の登場を切(せつ)に願うひとりだ。

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