全米オープン直前。錦織圭がつけなかったウソ (3ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki photo by AFLO

 そのような彼の想いが届いたのだろうか? 今回の全米オープンでは、伊藤竜馬、ダニエル太郎、さらに西岡良仁の3選手が、予選を突破して本選出場権を獲得。そのうち、ダニエルと西岡は24歳の錦織よりも若く、特に西岡は今回が予選初出場の18歳である。

 そのふたりが「この試合に勝てば本選出場」という予選決勝に向かう前、錦織は後輩に声を掛けようと思いつつも、「重荷になるような言葉を掛けたくないと思うと、アドバイスする勇気がなかった」のだという。それは、この世界の過酷さを誰よりも熟知する錦織ならではの、同胞の成功を心から願うがための“積極的な静観”だったのだろう。そうして、自らが立つステージに足を踏み入れつつある戦友を得たことについて、錦織は次のような想いを語った。

「日本全体のテニスのレベルが、さらに上がっている。以前に添田(豪)君と伊藤君が100位内に入っていたような状況が、また見られると思います。特に若いふたりが勝ち上がってきているのは、日本のテニスにとって良いこと。なので、デビスカップがすごく楽しみですね。ワールドグループ(上位16カ国によるトーナメント)にどんどん出ていける国を作りたいです」

 錦織圭というアスリートは、基本的にウソがつけない人なのだと思う。だからこそ、彼が口にする言葉には、そして浮かべる表情には、まっすぐに信じたくなる力が宿る。

 錦織が今回の全米オープンに出場できるかどうか、それは、まだはっきりとは分からない。それでも、後輩の成長を喜ぶ彼の声からは、希望の匂いが立ちこめる。のちに、「今の日本テニス界の快進撃は、あそこから始まったね」と振り返るターニングポイントが、今年のニューヨークになるのかもしれない。

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