ラグビー日本代表の元通訳はデスメタルバンドのボーカル ツアーが白紙となった時にエディーHCからの連絡「これは運命だ」 (3ページ目)
──相手に物事を伝える上では声質も大事です。ボーカリストとしての経験が生きた部分ではないでしょうか?
「そうですね。中学ぐらいから声が低かったのですが、よく通り、よく響く声だと周りからは言っていただきました。デスメタルなどのジャンルは激しく叫びますので、必然的に腹式呼吸ができるようになります。それによって普段も声が前に出ているんだと思います。
ノイズがある中でも一番通るこのバリトンボイスは、通訳においても効果的だと感じています。聞き取りやすい声とそうでない声はどうしてもあるのですが、ミーティングなどで通訳の声が聞き取りづらかった場合、話を集中して聞くのは大変ですし、聞き手は集中力を保てません。だからこの声を持っていてよかったです。バンドのフロントマンとしてステージ上で大衆に向けてメッセージを発することに慣れていたのも大きかったと思います。
また、2019年のワールドカップ終了後は専門学校の教壇に立って、学生に向けて授業することでもいろいろなスキルが身につき、自分が話者となることで(コーチなどの)話す側の気持ちもわかるようになりました。それを2年やってからラグビーの現場(横浜キヤノンイーグルス)に戻ってきて再び通訳を務めたところ、以前よりもプレゼンテーション能力が上がっていましたし、言葉のチョイスや英語のブラッシュアップもより進んでいました。いろいろなピースが全部うまくハマったことが、昨季のリーグワンの結果(3位)につながったのではないかと思っています」
後編:「ラグビー日本代表の元通訳が振り返る「ブライトンの奇跡」 エディーHCから「ちゃんとPGを選択しろと伝えたのか!?」と聞かれて不安になった」に続く
【profile】
佐藤 秀典(さとう・ひでのり)
1981年3月28日生まれ、東京都渋谷区出身。横浜キヤノンイーグルス通訳。小学生の時に家族で移住したオーストラリアでラグビーに夢中になった後、徐々にデスメタルに傾倒。帰国後、トップリーグのワールドやキヤノンで2014年まで通訳を務めた後、2015年から2019年まで日本代表の通訳。NTTドコモ、スーパーラグビーのサンウルブズでも通訳を務めた。株式会社EHB International代表。履正社国際医療スポーツ専門学校「スポーツ外国語学科」学科長。デスメタルバンド「INFERNAL REVULSION」ボーカル。
著者プロフィール
齋藤龍太郎 (さいとう・りゅうたろう)
編集者、ライター、フォトグラファー。1976年、東京都生まれ。明治大学在学中にラグビーの魅力にとりつかれ、卒業後、入社した出版社でラグビーのムック、書籍を手がける。2015年に独立し、編集プロダクション「楕円銀河」を設立。世界各地でラグビーを取材し、さまざまなメディアに寄稿中。著書に『オールブラックス・プライド』(東邦出版)。
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