ラグビー早明戦、ミス連発の早稲田が敗戦「最初の10分、それが僕たちの弱さ」 (2ページ目)

  • 松瀬学●文 text by Matsuse Manabu
  • 齋藤龍太郎●撮影 photo by Saito Ryutaro

痛恨の連続ノットストレート

 早大のゲームテーマが「セイム・ビジョン」と「プライド」だった。みんなで同じゴールを見据えて戦おう、早大の誇りを持って全力を出そうということだ。

 だが、相良昌彦主将をケガで欠いていたこともあろうが、攻守に意思統一、連携とプレーの精度が乱れるところがあった。

 2トライを奪われた後、早大が反撃に転じる。敵陣に入っての右ラインアウト。しかし、早大のキーマン、フッカー(HO)の佐藤健次がボールをまっすぐ投入しない「ノットストレート」の反則を犯してしまう。直後の相手ボールのファーストスクラム。早大はレフリーのコールより先に組みこんでしまう「アーリーエンゲージ」の反則を重ねてしまった。これでは歯車がかみ合わない。

 さらに前半18分、PKから敵陣深く蹴り込んでの早大のチャンス。このラインアウトでも、HO佐藤はノットストレートを犯してしまった。佐藤はレフリーの笛に「エッ」という驚きの表情をつくった。佐藤は思い出す。

「僕的には、"あれがノットですか"と思ったんです。でも、ジャッジなので......。スローイングの修正力、レフリーに対する対応力が足らなかったということです」

 ノットストレートが怖ければ、球の軌道の短い、ラインアウトの前部分の捕球で勝負すればいいのに、と考えるかもしれないが、明大の両ロックは190センチ台。佐藤は「前は相手に張られていたので」と説明した。さらに言えば、レフリーとのコミュニケーション不足だった。

 2本目のノットストレートのあとの相手ボールスクラムでは、ぐいぐい押し込まれて、コラプシング(故意に崩す行為)の反則まで奪われてしまった。悪循環をたどる。

 これでは早大はリズムに乗れない。佐藤は「最初の10分で試合の流れが決まってしまった」と声を落とした。

「今日はほんと、チームでどうこう、スキルがどうこうというよりは、本当に力で負けたし、意識で負けたという感じです。最初の10分、それが僕たちの弱さです」

 負けじ魂のかたまり。いつも強気の佐藤がしょんぼりとしている。11月23日の早慶戦で痛めた左足の後遺症もあろうが、ボールを持ってのロングゲインはあまり見られなかった。

 明大にマークされていたようで、ボールを持つ度、ダブルタックルを浴びた。後半中盤で交代した。自己評価を聞かれると、19歳の2年生はこう、小声で言った。

「ラインアウトは65点、スクラムが40点、フィールドプレーが20点ぐらいですか」

ここで変わるしかないぞ 

 早大は後半開始直後、インターセプトでトライを奪われたが、戦術を変更し、ディフェンスラインの裏へのキックや、ハイパントを使い出し、明大を揺さぶった。中盤には1トライ(1ゴール)の7点差に詰め寄った。ただ好機ではコラプシング、ノットストレートの反則が続く。

 結局、早大はFW戦では後手を踏んだ。とくにスクラム、ラインアウトのセットプレーで明大にやられた。ここはFWのプライドがぶつかるところだろう。

 昨年の大学選手権準々決勝では、スクラムで押されて明大に敗れた。屈辱だった。それから1年、早大は体力アップ、ウエイトアップ、フィジカルアップに努め、元日本代表PRの仲谷聖史コーチの好指導でスクラム強化を図ってきた。間違いなく、強くはなっているのだが。あとはさらなる結束力とうしろ5人(ロックとフランカー、ナンバー8)の押しか。

 これで、早大は大学選手権では12月11日の3回戦から戦うことになった。例年なら、早明戦のあと、大学選手権まで、2週間の時間があった。でも、今年は1週間。相手が、勢いのある初出場の東洋大である。FWが強い。規律もしっかりしている。難敵と見ていい。

 佐藤は「もう負けたら終わりなので」と漏らし、語気を強めた。

「東洋も強いので、今までの僕たちのメンタルなら負けてしまう。もう、負けたくない。もう1回、勝てるチームになれるよう、練習からガムシャラにやっていく」

 あと1週間。個々の体力や技術が激変することはない。ポイントはチーム戦術の徹底と意思統一、マインドセット(心構え)、そしてコンディショニングか。ケガの相良主将、SO伊藤大祐らの復帰がなるかどうか。

 東洋大に勝てば、準々決勝(12月25日・秩父宮)は宿敵明大との再戦となる。だが、明大へのリベンジを考えていたら、東洋大に負けるだろう。まずは3回戦に集中である。

 試合後、ロッカールームで異例の長時間のミーティングが開かれた。大田尾監督は最後、こう檄を飛ばしたそうだ。

「ここで変わるしかないぞ」

 そのとおりだろう。変わるとしたら、上井草の早大グラウンドの練習からである。

【著者プロフィール】松瀬学(まつせ・まなぶ)
ノンフィクションライター。スポーツジャーナリスト。日本体育大学スポーツマネジメント学部教授。元共同通信社記者。長崎県出身。
1987年の第1回大会からすべてのラグビーW杯を取材。また夏季五輪も1988年ソウル大会から2021年の東京大会まで9回取材している。
著書に『荒ぶるタックルマンの青春ノート 石塚武生のラグビー道』(論創社)、『ONE TEAMのスクラム 日本代表はどう強くなったのか?』 (光文社新書)など。

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