帝京大が明大を撃破し対抗戦V。なぜ司令塔・高本幹也は仲間からブーイングを受けたのか (2ページ目)

  • 松瀬学●文 text by Matsuse Manabu
  • 齋藤龍太郎●撮影 photo by Saito Ryutaro

まだまだ、まだまだ成長する余地がある

 才能は文句なしだ。高本幹は172センチ、83キロ。チームへの献身ゆえだろう、チーム内の信頼度も高い。「チームで一番練習する頑張り屋」(相馬監督)とあって、どうしてもプレーへの期待値は高くなる。

 そういえば、試合で一番活躍した選手に与えられる「プレーヤー・オブ・ザ・マッチ」の表彰式だった。「高本幹也」の名前がアナウンスされると、チームメイトから冗談の「ブーイング」が飛び出した。なぜ。

 相馬監督が記者会見で説明してくれた。

「チームメイトは、高本幹也はもっといい判断をする、キックもゴールを入れる、そう思っているからです。そういう意味では、まだまだ、まだまだ成長する余地がたくさんあるからです」

 確かに、高本幹は比較的簡単な位置のゴールキックを外した。ひな壇の隣で聞いていた21歳は神妙な面持ちで、こう漏らした。

「やっぱり自分でも納得がいかないところがあります。それは相馬さんが言っていたように、もっとできると自分でも思っています。これからの慶応戦、大学選手権があるので、もっと精度を高くして試合に臨みたいと思っています」

 チームの目標はあくまで、大学選手権連覇である。だから、節目の対抗戦優勝も喜びは控えめだった。相馬新監督の胴上げもなかった。「胴上げの予定は?」と記者から聞かれると、公称130キロの相馬新監督は巨体を揺らして笑った。

「まだ体重が減ってないので。たぶん、大学選手権決勝まで(ダイエットが)間に合わないんじゃないでしょうか。選手の安全を守るため、胴上げはしないんじゃないですか」

羨ましさと悔しい気持ち

 ところで、この日の夜、フランスでは日本代表対フランス代表(●17-35)があった。日本の先発SOを務めたのが、21歳の李承信だった。李は2019年に帝京大に入学し、1年で退学、リーグワンのコベルコ神戸スティーラーズに移った。つまり、1年生の時は高本幹の同期だった。

 そのポジション争いをしていた選手が、日本代表のジャージを着ている。再びミックスゾーン。李の話題を振ると、高本幹は「僕も、(日本代表に)入りたい」とつぶやいた。

「羨ましさと悔しい気持ちがあります。僕も、頑張っていけたらいいなと。今は大学でできることをしっかりやって、来年からは(日本代表に)挑戦していきたい」

 若者の心意気は貴い。高本幹は大学選手権決勝で「200%の力を出します」と語気を強めた。決勝まであと4試合、だから10%を4つ足して、200%というわけだ。

「チーム一丸となって、大学選手権で絶対、優勝したい」

 よく見れば、高本幹の右耳は、相馬監督同様、つぶれていた。帝京大に入って、スクラム練習ではなく、激しいタックルで内出血したそうだ。これは痛い。からだを張る選手の勲章のようなものだろう。

 沈着冷静。タフガイの高本幹が、帝京大を大学選手権連覇へとリードする。

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