ワールドカップに挑むフットサル女子日本代表・松本直美の原点 長友佑都のプレーに共感 (3ページ目)
【トップチーム参加で違和感】
しかし、女子サッカーでは、しばしば"好きの度合い"が試される。たとえば、所属先を探すのも簡単ではない。松本も往復3時間の通いを中高と続けている。
「片道1時間半くらいで...夜とか警察の人によく呼び止められました(笑)。当時は制服だったし、夜11時過ぎていたので。何度も会って、『また』って知り合いになりました(笑)」
中高と学校の友達とは長い時間を過ごせなかった。しかし、ジェフで作った友人とは今でも付き合いがあるという。青春は学校ではなく、サッカーボールを介したピッチにあった。帰り道はお腹が空いて、仲のいいチームメイトとコンビニに寄って、何本も入ったスティックパンを頬張り、冬は肉まんで満たされた。
やがて、ジェフでは何回かトップチームにも呼んでもらった。練習や、試合にも参加した。それは夢に近づくことを意味したはずだったが、トップチーム参加で違和感も覚えていた。人間関係も難しかったという。
「私はここでやるべきじゃないかも」
松本はその疑念を胸に抱いてしまった。
「私のなかでは"楽しい"っていう気持ちがいちばんじゃないと続けられなくて。それはサッカーを始めた頃からで。そこで、高校最後の大会で、どんな結果であれ引退しよう、って。やりきった、と当時は思ったんです」
松本はそう言って、こう言葉を継いだ。
「チームメイトにすごく仲がいい選手がいて。その子が、『最近の直美、元気ないね?』って心配してくれて。私も、『トップチームの練習が楽しくやれないんだよね』って正直に明かしたら、彼女も『直美らしくプレーできないんだったら、無理してやることないんじゃない?』って。私もそう思っていたので、『そうだよね』って」
彼女は高校卒業と同時にサッカーをやめ、料理人になることを決めた。
(後編につづく)
●Profile
松本直美(まつもと・なおみ)
1997年10月22日生まれ、東京都出身。5歳の時にサッカーを始める。ジェフユナイテッド千葉U-18でプレーし、一度は競技を引退。調理学校へ進学後、ホテルに就職するも、遊びで誘われたフットサルに参加し、忘れていた競技への思いが再燃。ホテルを辞め、埼玉県の「十条FC」を経て、当時日本リーグの「さいたまSAICOLO」に入団。2021年には、現所属である強豪チーム「バルドラール浦安ラス・ボニータス」に移籍した。
2021年6月に日本代表に初選出。2025年4月に開催された「SAT Women's Futsal Championship 2025」で日本代表は優勝し、松本自身もMVPを獲得。2025年11月に、史上初開催となるワールドカップに向けた日本代表メンバーにも選ばれている。
著者プロフィール

小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
【写真13点】美しきフットサル女子日本代表・松本直美
3 / 3














