【ウインターカップ女子】名伯楽の死から1年――夏の覇者・桜花学園がひと味違う強さを証明するため4年ぶりの冬の頂点を目指す (2ページ目)
【成長を止めなかった桜は冬に咲くか】
ウインターカップ制覇のカギを握る桜花学園のセンター、ディバイン photo by Kato Yoshio「女王」がその「メンタリティ」を取り戻したとしても、それだけでつかめるほど日本一は容易ではない。特に近年は高校女子バスケット界にも高さのある留学生が増えてきている。どれだけ優れたコーチであっても、「身長」は伸ばせない。褒めても、叱っても、これだけはどうしようもできないのである。身長の低いチームは相手の高さに苦しめられてしまう。
今年の桜花学園は、むろん全国大会の上位を争うチームと比較すればという意味だが、まさにその「身長の低い」チームである。本稿執筆時点でウインターカップのロスター(登録メンバー)は不明だが、今年度の「U18日清食品トップリーグ」の選手リストを見ると、180センチを超える選手はふたりしかいない。そのうちひとりはインターハイのロスターだが、ベンチスタートの控えメンバー。スタメンを予想される選手で最も大きいのは177センチである。180センチを優に超し、多くが190センチ前後の留学生を前にすると、身長的に見劣りすることは否めない。
特に高さの不利を最も感じるのはリバウンド――漫画『SLAMDUNK』で「リバウンドを制する者はゲームを制する」と言われた、あのリバウンドである。白コーチもそこがウインターカップに向けた一番の課題だと言う。
「一番の課題はリバウンドのところです。やはりウチは180センチを超す大きな主力選手が少ないので、留学生など高身長の相手に対して、いかにリバウンドを取るか。トップリーグでの数字をすべて洗い出して、対戦相手とはこれぐらいの差があるんだよと選手たちに見せました。リバウンドはほとんどのところで負けています。リバウンドを取らないと自分の攻撃権を取れないわけだから、そこはチームで課題を徹底しようと伝えています」
リバウンドだけではない。桜花学園のオフェンスはセンターを中心につくられている。いわゆる「インサイドバスケット」と呼ばれるものだが、これは故・井上氏が築き上げてきた桜花学園のスタイルであり、強さの象徴である。自身も桜花学園の卒業生で、186センチのセンターとして鍛えられた白コーチもその考え方を踏襲している。
「桜花学園にとってセンターは花形ポジションというか、中心のポジションになるんですよね。ただ今年はサイズがないので、桜花学園が基本にしているハイローのプレーはちょっと現状難しいかなと。だからセンターがスクリーナーに回る役割をさせているんですけど、ウチのガード陣は突破力があるので、その子たちを生かすのも、やっぱりセンターなんだよと言い続けています」
チームの大黒柱であることに変わりはないが、その役割がこれまでとは異なるというわけだ。スクリーナー、つまりは壁役となってチームメイトを生かすのだが、だからといって、これまでの"日向"から"日陰"に回されているわけでもない。そこにウインターカップを控えた桜花学園の強さ、成長があると白ヘッドコーチは言う。
「(今年のセンターであるイシボ)ディバインがトップリーグを通じて、安定して2ケタの得点を取れたことは本当に手応えを感じています。身長は177センチと決して大きくはないけど、インサイドの中心選手になるので、あの子が得点を取ってくれたら、ウチのアウトサイド陣、濱田(ななの)や竹内(みや)、勝部(璃子)らも生きてきます。そこは今、大きな手応えを感じているところです」
絶対的な高さこそないものの、自らの個性を生かしたイシボの成長で、今年の弱点になりかねなかったポジションが、今はむしろ強みになってきたと言うのである。
彼女の成長だけではない。「チームでも勝負どころがわかってきた」と白コーチは認める。
「近年は1点差で負けるなど、勝負どころの弱さで苦しんできましたが、今はチームで『ここが大事な場面だよ』という認識を持てるようになってきました。何より苦しくなったところでも下を向かなくなったんです。それは指揮する者として、苦しい場面で『ウチはまだまだいけるな』って思わせてくれるので、そこが一番の手応えを感じているところです」
絶対的な女王だった頃の桜花学園は、まさにそうだった。たとえ不利な状況になっても下を向くことはなく、ひとつのプレーで流れを変えると、桜花学園のバスケットを貫くことで形勢をひっくり返していた。その感覚を「U18日清食品トップリーグ」を通じて得ることができたと言うのである。
加えて、インターハイのときはケガでロスターに入れなかったキャプテンの棚倉七菜子と金澤杏も順調にリハビリを進められている。彼女たちがロスター入りすれば、それも大きな追い風となる。
3年間、苦杯を嘗めさせられたウインターカップで満開の桜を咲かせられるか。冬の桜花学園は、夏の桜花学園とはひと味違う。
著者プロフィール
三上 太 (みかみ・ふとし)
1973年生まれ、山口県出身。2004年からバスケットボールを中心に取材・執筆をする187センチの大型スポーツライター。著書に「高校バスケは頭脳が9割」(東邦出版)、共著に「子どもがバスケを始めたら読む本」、「必勝不敗 能代工バスケットボール部の軌跡1960-2021」(いずれもベースボール・マガジン社)があり、構成として「走らんか! 福岡第一高校・男子バスケットボール部の流儀」(竹書房)がある。
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