琉球ゴールデンキングスが"泥臭さ"と"団結力"で築き続ける比類なき実績 沖縄スポーツ界の象徴・岸本隆一が語る天皇杯初制覇の意味 (2ページ目)
【"強いが、強くない"強さ】
桶谷大HCにとって天皇杯初制覇は喜びより安堵の意が強かった photo by Kato Yoshioこの記事に関連する写真を見る そんな「岸本の」琉球が頂点に立ち、天皇杯を手にした。琉球はBリーグでは3年連続ファイナル進出中で2022-23シーズンには初めてのBリーグ制覇を遂げ、天皇杯には今回で3年連続での決勝進出を果たした。このチームがリーグの強豪中の強豪であることに疑いの余地はない。
しかし一方で、その6度の決勝戦で優勝を完遂できたのは、今回で2度目にすぎない。通常のレギュラーシーズンの戦いぶりも含めて、憎たらしいほどに相手を圧倒するようなチームではなく、どちらかといえばリバウンドやルーズボールを取りきるところから得点機を広げるといった泥臭い戦いぶりをする。そこにこのチームの魅力があるのだろう。
「ほっとしていますよ。はははは」
強いが、強くない。天皇杯制覇後に感想を求められた桶谷HCが高らかに笑ったことが、そのことをどこか指し示していた。
連敗から「切り替えられた」という岸本の言葉が本音かどうかは測りかねるところがあったが、桶谷氏の「ほっとしています」に疑いをかける必要はない。
再び、天皇杯決勝の前週のEASL。3位決定戦で琉球は元NBAのジェレミー・リン率いるニュータイペイキングスに対して最終盤で逆転負けを喫した。試合後の記者会見には敗戦チームのHCと選手1名が登壇することとなっていた。しかし、琉球からは小野寺祥太のみが来て、先に取材対応をした。
桶谷HCは、勝利したニュータイペイの会見が終ってからやってきた。その頃にはもう、広島ドラゴンフライズと桃園パウイアンパイロッツとの決勝戦が開始していた。3位決定戦が終わって1時間近くは経っていたかと思われる。
その間に何があったのかは、わからない。桶谷HCは敗戦が天皇杯決勝戦などその後の試合にもつながると前を向く発言をした。だが、続けて言葉を紡ぐなかで、こう漏らしもしていた。
「このチームに関しては成長をしていく段階にいるなっていうところで、まあこの......苦いですよね。僕も試合が終ってから立ち直れないくらい......でも、それを受け入れていかないといけないなっていうふうに思っています」
思えば、琉球は苦しみと栄冠を交互に味わってきたようなチームだ。換言すれば、一般社会にある多くの者と同様、いつもいい風が吹いているわけではないということを体現するような軍団なのである。
昨年の天皇杯決勝では、千葉ジェッツを相手に48点差という悲劇的な大敗を喫した。シーズンの戦績から言えば優勝候補の筆頭だったはずのEASLファイナル4でも、先述のとおり連敗した。
中立地開催の天皇杯決勝戦は奇しくも、アルバルク東京の普段のホームである代々木第一体育館で行なわれた。EASLからの連敗もあり、琉球に分が悪いように思うのが普通だった。
しかし会場のおおよそ半分は琉球ファンで埋め尽くされ、脆さのあるチームを大きな声援があと押しした。青臭い物言いかもしれないが、そのことが「ホームの」東京を機能不全にしたからこその勝利だったとも言えた。
ファンの多くが遠く沖縄から来ていたに違いない。琉球の選手たちがマカオではやや萎えてしまっていたように見えた勇壮さを、「団結の力」のスローガンの入った白いTシャツを着たファンたちから取り戻してもらっていた。
「みんながゴールにアタックしていましたし、それがスコアにもなっていました。それがいい連鎖を生んでディフェンスのインテンシティ(強度)も上がっていきました。なんか自分たちは本当にこうやって勝ってきたなあっていうのをすごく表現できていました」
岸本がこのように語ったことは、その証左としていいだろう。
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