琉球ゴールデンキングスが"泥臭さ"と"団結力"で築き続ける比類なき実績 沖縄スポーツ界の象徴・岸本隆一が語る天皇杯初制覇の意味 (3ページ目)
【「たまにはいいことあるな」に見る岸本像】
岸本(右)の悲観も楽観もしない姿勢もチーム全体の文化を醸成しているのかもしれない photo by Kato Yoshioこの記事に関連する写真を見る 100回目の記念すべき大会で、琉球は天皇杯を初めて沖縄にもたらすこととなった。日本の男子トップリーグがふたつに分裂していたBリーグ以前、bjリーグのチームには天皇杯に参加することすらできない時期があった。また、沖縄という場所が日本史のなかで特別かつ複雑な背景を持つ場所だということもある。琉球が賜杯をこの地に持ち帰ることで、ほかのチームが勝ち取るのとはまた違う意義と感慨を人々は感じたかもしれない。
「天皇杯というのは、沖縄の人にとっても思い入れのある大会だと思うので」
岸本はそう言った。
「昔から強い思いをもって積み重ねてきた人たちがいて、今日という日を迎えられたと思うので、いろんな人が報われるような、そんな大会になったと思います」
琉球にとって天皇杯制覇の余韻に浸る時間は、瞬間的なものでしかないだろう。息つく暇もなくBリーグのシーズンが再開し、4年連続のファイナル進出と2年ぶりの優勝を狙う作業に本腰を入れなければならないからだ。
その作業は、おそらく容易ならざるものとなりそうである。
「1クォーターから4クォーターの終盤まで、正直、あまり気持ちの変化はなくて。そもそもクロスゲーム(接戦)になって、お互い削り合いのなかでちょっとした隙が勝敗を分けるという認識で戦っていたので、その時間帯に関しても自分のなかで大きなターニングポイントだという意識はなかったかなと思います」
天皇杯決勝の最終局面で、琉球は少し点差を離したかと思いきや、東京が連続得点で琉球ファンを少し緊張させるような点差に戻した。その時の心境について問われた岸本は、大きな感情の抑揚を見せることなく答えた。
必要以上に悲観もしないが、無駄に楽観もしない、粛々と仕事をやり続けるのが岸本という選手の真髄か。彼の言葉を聞くと、勝利を決定的にするレイアップを決めても、勝利のブザーがなっても大きく表情を緩めることがなかったのにも、合点がいく。
「たまにはいいことあるな」
天皇杯制覇について岸本は、こうも語っている。
身長176cmの彼が10cm以上背の高いテーブス海越しに決めた勝利を決定づけるレイアップは、何度見返しても難しそうだった。
それは、「たまにはいいこと」という彼の言葉を象徴するような1本であったようにも思えた。
著者プロフィール
永塚和志 (ながつか・かずし)
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。
Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、 2019W杯等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。 他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験 もある。著書に「''近代フットボールの父'' チャック・ミルズが紡いだ糸」(ベースボール・マガジン社) があり、東京五輪で日本女子バスケ代表を銀メダルに導いたトム・ ホーバスHC著「ウイニングメンタリティー コーチングとは信じること」、川崎ブレイブサンダース・ 篠山竜青選手 著「日々、努力。」(ともにベースボール・マガジン社) 等の取材構成にも関わっている。
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