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琉球ゴールデンキングスが"泥臭さ"と"団結力"で築き続ける比類なき実績 沖縄スポーツ界の象徴・岸本隆一が語る天皇杯初制覇の意味

  • 永塚和志●取材・文 text by Kaz Nagatsuka
  • 加藤誠夫●写真 photo by Kato Yoshio

落ち着いた様子で天皇杯初制覇を語った琉球・岸本 photo by Kato Yoshio落ち着いた様子で天皇杯初制覇を語った琉球・岸本 photo by Kato Yoshioこの記事に関連する写真を見る

 第100回の記念大会となったバスケットボール天皇杯決勝でアルバルク東京を60対49で下し、沖縄勢として初めて頂点に立った琉球ゴールデンキングス。Bリーグとこの天皇杯では2021-22シーズンのBリーグファイナルから今回の天皇杯まで6連続で決勝の舞台を踏む実績は比類なきすばらしいものだ。だが、琉球が圧倒的な強さを誇っているかと言ったら決してそうではない印象を受ける。

 その強さや魅力はどこにあるのか。Bリーグ誕生前から琉球ひと筋でプレーしてきた岸本隆一の言葉を拾いながら、あらためて考えてみる。

【「明日は明日でまったく違う日になる」】

 プロ入りから喜びも苦しみも味わってきた男にとって、ブザーが鳴るまでは試合の幕は閉じないということか。

 試合時間は残り46秒。中央付近から切り込んだ岸本隆一がテーブス海の頭越しに放ったふわりとしたレイアップは、バックボードに柔らかく当たって吸い込まれるようにリングの中に落ちた。

 得点が2点加点されたことで、点差は9。勝利を決定づけるシュートが入ったにもかかわらず、岸本の表情に大きな変化は見られなかった。試合の終わるブザーが鳴っても、チームメートたちの多くが両手を上げたり、満面の笑顔をたたえるなかで、彼は相好を大きく崩すことはなかった。

「うれしいです」

 試合後の記者会見。優勝の感想を聞かれた岸本が発した言葉は、これだけだった。短かったが、そこにはさまざまな思いが混在しているように感じられた。実際、そう言う彼の顔には終了のブザーの直後にはなかったほがらかな笑顔が広がっていた。

 沖縄・名護市出身で琉球では、Bリーグの前身であるbjリーグ時代からプレーをしてきた。その実績から"ミスターキングス"と呼ばれる。紛うことなきチームの、もっと言えば沖縄スポーツ界の象徴的存在だ。

 Bリーグにおいて「そのチームの顔は誰か?」と聞かれた時、「全会一致」で名前が出てくるような選手はまだ多くはないかもしれない。が、岸本はそうした数少ない例かもしれない。そのことはプロスポーツ選手としてこのうえない愉楽であるに違いない。

 と同時に、岸本の肩にのしかかる重圧や負担は、いかなるものか。岸本は琉球ひと筋でプレーする顔であるだけでなく、先発ポイントガードを担うチームの心臓である。琉球を抑えるために相手チームが岸本に対して徹底的にマークを厚くしてくることは、何ら不思議なことではない。天皇杯決勝戦のアルバルク東京にしても、岸本がボールを持てば人数をかけてディフェンスを厳しくしていた。

 天皇杯から遡ること1週間。琉球はマカオで、東アジアスーパーリーグ(EASL)の4強が優勝を争う「ファイナル4」を戦った。琉球はここでひとつの勝利を挙げることなく4位に終わった。敗因の要因のひとつとなったのは、相手が岸本への対策を徹底したことにあった。結果、岸本は準決勝と3位決定戦の2試合で平均7.5得点のみで、得意の3Pは23本中4本の成功(成功率17.4%)に終ってしまった。

 同大会が終って数日後、Bリーグの公式戦に戻った琉球は延長の末、島根スサノオマジックに敗れ、マカオで負った傷に塩を塗られる形となった。チームが苦しんでいることは、明らかだった。桶谷大ヘッドコーチが「チームが崩壊してもおかしくなかった」と話したほどだから、危機的状況にあったとしていい。

 しかし天皇杯決勝前日に行なわれた会見での岸本の表情や口調には、晴れやかとは言わないものの、重苦しい雰囲気はなかった。

「直近の試合の結果を見れば、もちろんよいとは言えないんですけど、悲壮感みたいなものはまったくなくて。むしろ自分のなかではもっと悪い状況を想像してというか......今シーズンに限らず今までの自分のキャリアのなかではもっと追い込まれたことは何度もあるので。そういう意味では切り替えられているかなという感じですかね。

 明日は明日でまったく違う日になるっていう気持ちでいますし、(試合をしたうえで)結果がついてくると思うので、一生懸命がんばりたいと思います」

 岸本の出身の名護は沖縄本島北部の自然豊かな「やんばる」地域にあり、この一帯の人々は一般的にポジティブでバイタリティがあると言われる。EASLからの連敗があっても「切り替えられている」「明日は明日で......」と楽観的に話したのは、あるいは、やんばる出身の彼の楽観さによるものなのだろうか。取材の際などには言葉を選びながら丁寧に受け答えをする彼を見ているだけに、気になるところだ。

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著者プロフィール

  • 永塚和志

    永塚和志 (ながつか・かずし)

    スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019W杯等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。著書に「''近代フットボールの父'' チャック・ミルズが紡いだ糸」(ベースボール・マガジン社)があり、東京五輪で日本女子バスケ代表を銀メダルに導いたトム・ホーバスHC著「ウイニングメンタリティー コーチングとは信じること」、川崎ブレイブサンダース・篠山竜青選手 著「日々、努力。」(ともにベースボール・マガジン社)等の取材構成にも関わっている。

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