トヨタがF1最少規模のハースと手を組んだ理由 互いにとってプライスレスな価値とは
『トヨタがハースF1チームと提携し、F1に復帰!』
そんな見出しがメディアに躍ることは、ほとんどなかった。豊田章男トヨタ会長自身が「F1復帰とは書かないでください」と明言したからだ。
「『トヨタついにF1復帰』ではなく、『世界一速いクルマに自分も乗れるかもしれない』と、日本の子どたちが夢を見られるような見出しと記事をお願いします」
今回のトヨタガズーレーシング(TGR)とハースの"業務提携"は、まさにこの「若い人たちの夢」が軸にある。
ハースのマシンにトヨタガズーレーシングのロゴが入った photo by BOOZYこの記事に関連する写真を見る TGRとハースが共同で2023年型F1マシンを使ったプライベートテスト(TPC)を行ない、ここに日本のドライバーやエンジニア、メカニックたちが参加する機会を提供する。それによって、極めて狭き門となってしまっている日本から世界、そしてモータースポーツの世界の頂点であるF1への道筋を作り出そうというわけだ。
「F1が世界最高峰のモータースポーツだというのは、みなさんもご存じのとおりですし、我々も認めているところです。その一番速いマシンに乗りたいというドライバー、そんな仕事に関わりたいというエンジニアやメカニックがたくさんいると思います。
トヨタはかつてF1チーム(参戦期間2002年〜2009年)を自社で持っていましたけど、私が社長の時に撤退を決定しました。その後10数年の間に、その道を閉ざしてしまったなと思っていたのは私自身もそうですし、周りのドライバーたちもそうだったと思います。
そんな時にハースの小松(礼雄)さんとの出会いからこういうきっかけをいただいて、そういう人たちに夢と希望を与えられる道筋ができるんじゃないかなという第一歩が、今日の発表だと私は思っています」
若い人に夢を与えるだけでなく、具体的な道筋も与える。それがトヨタ全体にいい人材を呼び集めるという波及効果も、当然期待しているはずだ。
一方でハースの小松礼雄代表も今年1月のチーム代表就任直後から、「自分がこうして活躍することで若い人たちに世界に出て仕事をしたいと思ってもらい、勇気づけられれば」と語っていた。若くして渡英し、自力でF1エンジニアへの道を切り拓いてきた小松代表だからこそ、そういった思いは常に持っていたのだ。
1 / 4
著者プロフィール
米家峰起 (よねや・みねおき)
F1解説者。 1981年1月31日生まれ、兵庫県出身。F1雑誌の編集者からフリーランスとなり2009年にF1全戦取材を開始、F1取材歴14年。各種媒体に執筆、フジテレビNEXTやYouTube『F1LIFE channel』での解説を務める。