F1角田裕毅の「評価を厳しくさせた」チームメイトの存在 中野信治が語る日本人ドライバーへの期待 (3ページ目)

  • 川原田 剛●取材・文 text by Kawarada Tsuyoshi

【日本レース界の課題とは】

 現在、F1を目指してヨーロッパと国内で日本人ドライバーが戦っています。

 昨年、国内最高峰のスーパーフォーミュラ(SF)とスーパーGTでダブルチャンピオンを獲得した宮田莉朋選手はFIA-F2選手権に参戦しています。前半戦はちょっと苦しんでいました(入賞6回、ドライバーズランキング18位)。

 ヨーロッパのレースの戦い方やタイヤの使い方、ミュー(摩耗係数)の低い路面など、環境が異なるなかでいきなり結果を出すのは難しい。でも、宮田選手であれば経験を積めば、2年目には結果を出してくると僕は思っています。

 昨年、日本で何度か宮田選手のレースを見ましたが、彼は日本でトップ3に入るぐらいクルマの運転が本当にうまい。でも、あれだけうまくてもヨーロッパで簡単にトップは獲れない。しかも、日本のチャンピオンが経験豊富とは言えない19歳や20歳といったヨーロッパの若いドライバーたちに負けてしまう。この現実を日本のモータースポーツ界は衝撃を持って受け止めるべきだと僕は感じています。

 たしかにSFはすばらしいカテゴリーで、F1に次ぐコーナリングスピードがあって、タイヤは高性能で、エンジニアリングも優秀だと思います。ただ一方で、ドライバーは下位カテゴリーの時代から同じサーキットを数多く走っていて、走らせているエンジニアたちも同様です。ドライバーとエンジニアの多くはともにスーパーGTにも参戦していますので同じ顔触れでずっと戦っています。

 だから、いい意味でも悪い意味でも相手のことがわかってしまう。阿吽の呼吸のようなものがエンジニアとドライバー同士にあって、ヨーロッパにパッと飛び出した時にすぐに対応できない側面がどうしてもあると思います。

 一方で、海外の強豪ドライバーが日本のレースに参戦すると、いきなり勝ってしまうことがあります。最近ではリアム・ローソン(2023年)やピエール・ガスリー(2017年)がそうですが、日本のタイヤやサーキットが初めてという状況でも結果を出しています。

 これは、日本のモータースポーツ界に何が足りないのかという課題を明確に示していると思います。この結果を見た時にドライバーだけでなく、育成を担当する我々も学ばなければならないんです。現実を知ったうえでどう育てるかということを考えなければならないとあらためて感じています。

 宮田選手とは逆に、今シーズン、FIA-F2選手権からSFに岩佐歩夢選手が参戦しています。彼は日本でのレース経験はほとんどないですが、前半の4戦を終えてランキング4位。優勝はありませんが、2位は2回と、いいレースをしていると思います。

 僕は岩佐選手が鈴鹿サーキットレーシングスクール(現ホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿)の生徒だった頃から教えていますので、運転がうまいのは知っています。SFのタイヤの使い方やクルマの作り方などは早い段階で学習しているように見えましたので、あれぐらい戦えるのは当然だと思っています。

 本音を言えば、もっと活躍してほしい。海外に戻りF1参戦を目指すのであれば、岩佐選手に残された時間はそれほどありません。そろそろ優勝という結果を出さなければなりません。

 世界基準のドライバーだったら、みんなが3〜4年かけてチャンピオン争いをするところを1〜2年でやってしまわなければ世界のトップでは通用しない。ヨーロッパのチームのオーナーたちといろいろと話してきましたが、彼らの多くも同じように考えています。

 それはSFでもF2でも同じです。岩佐選手と宮田選手もそれはわかっていると思いますので、後半戦の彼らの活躍を期待しています。

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【プロフィール】
中野信治 なかの・しんじ 
1971年、大阪府生まれ。F1、アメリカのカートおよびインディカー、ルマン24時間レースなどの国際舞台で長く活躍。現在は豊富な経験を活かし、ホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿の副校長として、F1参戦を目指す岩佐歩夢をはじめ、国内外で活躍する若手ドライバーの育成を行なう。また、DAZN(ダゾーン)のF1中継や毎週水曜のF1番組『WEDNESDAY F1 TIME』の解説を担当。

プロフィール

  • 川原田 剛

    川原田 剛 (かわらだ・つよし)

    1991年からF1専門誌で編集者として働き始め、その後フリーランスのライターとして独立。一般誌やスポーツ専門誌にモータースポーツの記事を執筆。現在は『週刊プレイボーイ』で連載「堂本光一 コンマ1秒の恍惚」を担当。スポーツ総合雑誌『webスポルティーバ』をはじめ、さまざまな媒体でスポーツやエンターテイメントの世界で活躍する人物のインタビュー記事を手がけている。

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