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FIFAワールドカップの試合をたくさん見たい! ベテラン記者が経験してきた宿泊と移動の奮闘記 (4ページ目)

  • 後藤健生●文 text by Takeo Goto

【W杯観戦の理想的な環境とは】

 ベースキャンプ探しに苦労したのは2010年南アフリカ大会だった。

 なにしろ、南アフリカ共和国は治安が悪いので有名だった。「アフリカーナー」と呼ばれるオランダ系白人たちの政府が長年、悪名高い「人種隔離(アパルトヘイト)政策」を実施してきたため、民主化された今でも人種間の対立は根深く、アフリカ最大の経済規模を誇る一方で、不利な状況に置かれている黒人たちは貧しい生活を送っている。

 最大の都市ヨハネスブルグにはそんな黒人居住区が点在し、都心部も非常に犯罪が多いので有名だった。

 安全な地域もあるのだが、そういう場所のホテルはどこも高い......。

 そこで、僕はヨハネスブルグ郊外の宿泊施設に目を付けた。

 塀に囲まれて、24時間警備員が巡回している宿泊施設だ。ヨハネスブルグと首都のプレトリアの中間付近のミッドランドという町にはそんな施設が点在していた。

 僕は「ビッグツリー」というゲストハウスを見つけた。

 問題は交通だった。

 鉄道やバスなどの公共交通機関で都心に向かうのはちょっと(いや、かなり)危険そうだった。自動車を利用するのがいちばんいいのだが、僕は自慢ではないが運転免許を持っていない......。

 そこで、僕は運転が好きそうな同業者(ジャーナリストやフォトグラファー)に声をかけたのだ。約10人が参加した。そして、大会中は3台のレンタカーを借り切りにして、試合会場まで往復した。近くのヨハネスブルグやプレトリアだけでなく、日本が初戦(カメルーン戦)を戦ったブルームフォンテーンやデンマークと対戦したルステンブルクまでは自動車で往復可能だったし、ケープタウンのような遠隔地に行く時も空港まで自動車で行き来することができて、とても便利だった。

「ビッグツリー」(僕たちは「大木旅館」と呼んでいた)という施設は、敷地内にコテッジが立ち並んでいる構造で、名前の通り芝生の庭の真ん中には大きな木が立っている緑豊かな施設だった。経営者の家族もいい人たちばかりだったし、いつも帰ってくると大きな犬が出迎えてくれた。また、緑豊かな庭ではブライ(南アフリカ式のバーベキュー)パーティーをすることもできた。

 気候的に寒くて、電力不足で暖房が十分でなかったことを除けば、「ビッグツリー」ではとても楽しい1カ月を過ごすことができたのである。

 しかし、W杯観戦のための理想的な環境は2022年大会が開かれたカタールだったのではないだろうか。

 なにしろ、試合はすべてドーハかその近郊都市で行なわれた。メトロは無料だったし、やはり無料のシャトルバスが大量に運行されたので、グループリーグの間は毎日2試合を観戦することができた。

 参加チームにとっても移動距離は短くて済むし、気候的な違いがないので公平な大会となった。

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著者プロフィール

  • 後藤健生

    後藤健生 (ごとう・たけお)

    1952年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。1964年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、1974年西ドイツW杯以来ワールドカップはすべて現地観戦。カタール大会では29試合を観戦した。2025年、生涯観戦試合数は7700試合を超えた。主な著書に『日本サッカー史――日本代表の90年』(2007年、双葉社)、『国立競技場の100年――明治神宮外苑から見る日本の近代スポーツ』(2013年、ミネルヴァ書房)、『森保ジャパン 世界で勝つための条件―日本代表監督論』(2019年、NHK出版新書)など。

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