久保建英が見せつけた技術の確かさ レアル・ソシエダが日本サッカーに与えた教訓とは? (3ページ目)
たとえば長崎の笠柳翼、横浜FCの新保海鈴のふたりは技術面で出色だった。だからこそ、ラ・レアルをも脅かすことができた。
ふたりは技術の高さを生かし、アドバンテージを取り、それが得点やアシストにつながっていた。笠柳は縦、内とどちらにも切り込めるドリブルを見せ、ディフェンスの距離感をバグらせて、カットインからの右足ゴールを決めた。新保はFKからのゴールアシストも見事だったが、ルキアンへのクロスはラ・リーガのレベルで、相手をドリブルで押し下げたあと、瞬間的に生まれたバックラインの前のスペースにボールを流し込んでいた。
ふたりはラ・リーガで戦う素養がある選手と言えるだろう。
ラ・レアルは、そうした"技術を出せる"選手を丹念に育成してきた。技術は持っているだけでは意味がない。技術を出せる戦術、体力、メンタルを身につけ、さらに磨いていく野心や向上心が必要になる。その技術こそが個性につながるのだ。
たとえば今オフ、アーセナルに移籍することになったMFマルティン・スビメンディは、下部組織スビエタで育った代表選手だろう。
「息子は幼い頃から、"あれがマルティンだ!"と遠くから見てもわかるキャラクターの選手だった。"ピン、パン"と小気味よくボールをさばいていた。それはフットボールを考察したビジョンがないとできないプレーなのさ」
スビメンディの父がそう語っていたことがあったが、原型は子ども時代にほとんどできている。そういう子どもたちを集めて、切磋琢磨させる。それがラ・レアルの強さを生み出している。
もっとも、こうしたジャパンツアーがクラブの強化につながるかについては議論の余地はある。ラ・レアルは例年、フランスの山間部にあるトレーニング施設でじっくりとシーズンを戦う準備をしてきた。集金活動のため、長い時間をかけて日本に来て、主力も抜きで高温のなか、ゲームを戦う必要性は現場にはない。
やはりジャパンツアーはお祭りであり、夏の陽炎だったか。
著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
フォトギャラリーを見る
3 / 3