クリスティアーノ・ロナウドはただのエゴイストではない なぜ誰でも決められそうなチャンスを仕留めているのか (3ページ目)
【ラストパスを呼び込む能力】
しかし、いくらポルトガルの英雄と言っても力がなければエースとして起用されない。その得点力を信頼されているから試合に出ている。誰にでも決められそうな得点なのは、ロナウドがそうしているからで、シュートする前に勝負をつけているからだ。
まず、シュートの瞬間はほとんどフリーになっている。しかもゴールの至近距離。外すわけがない。けれども、DFに捕まっている状態なら簡単ではないわけで、マークを外していることがポイントである。基本的にはDFの背中側にいる。クロスボールが蹴られる瞬間にDFはボールを見るので、そのタイミングで背後のロナウドに動かれると捕まえるのは困難だ。
ただ、多くのストライカーも同じようなポジショニングをしている。ロナウドが非凡なのはボールがどこに来るかの予測だ。低いボールなのか、高いのか。どこを通って来るのか。その予測が的確なのだ。
マークを外していてもボールが来ない、ボールが来る場所にいてもマークされている、そのどちらもロナウドの場合は比較的に少ない。どこでシュートするかの読みと、マークを外すタイミングを一致させていて、詰まるところ最適のタイミングで最適の場所にいられるのである。
味方もその能力を信頼しているので、まずロナウドを見ているということも大きいかもしれないが、同時にロナウドを見さえすれば、どこにどんなボールを蹴れば得点になるかわかるのだ。
混沌としているゴール前で、ロナウドの動きが「ここだよ」と教えてくれている。それがパスの出し手にとって無理難題ではなく、無理なく届けられる場所を教えてくれているので導かれるように蹴る。
出し手が「ここにいてくれれば」という場所にいるだけでなく、「ここに出せばいいのか」と気づかせる。最適解を提示してくれている。優れたストライカーはただのエゴイストではないのだ。
著者プロフィール
西部謙司 (にしべ・けんじ)
1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。
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