ナポリのセリエA優勝の背景に動かない「古のストライカー」 ロメル・ルカクをどう機能させたのか (2ページ目)
【コンタクトの強さを最大限に生かす】
パワーが武器のルカクは最前線にポジションをとる。プレーの特性上、相手センターバック(CB)と至近距離に居続ける。前線に張りついて動かないから攻撃の流動性が生まれにくい。それ以上の問題は守備面での貢献の低さだ。リオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドも同じだが、守備時には実質10人で戦わなければならない難しさがある。
しかし、コンテ監督は予想されるマイナス面を承知のうえでルカクを起用したはずで、ルカクはその期待に応えた。チームの最多得点者となりオシムヘンの穴を埋めた。
優勝を決めたカリアリ戦、ルカクの2点目はルカクでなければ決められないようなゴールだった。
ナポリ陣内のゴールライン際から蹴りだしたクリアボールを拾ったルカクは、最初の競り合いで相手DFを半身でブロックしてボールを確保。右肩を相手の左肩に当てたままDFの動きを止めてしまっている。落下してきたボールは大きくバウンドしていて、ルカクもDFもすぐに触れていない。結局、ルカクとの押し合いに負けたDFがやや弾かれるような形で距離をとられている。
ルカクはボールを早くコントロールしようとしていない。ボールよりも相手で、相手に触らせなければボールは自分のものになる。そういう駆け引きなのだ。だから、ルカクはあまりボールを気にしておらず、相手が先にボールへ触れないように体を止めることに専念している。
CFがボールを受ける場合、背後の相手とボールを扱うことの2つを同時にやる難しさがあるわけだが、ルカクはボールを放っておいて相手との格闘を優先していて、ここを制してしまえばボールコントロールの困難さもなくなるというやり方である。
この後も圧巻。中央から左へ少し流れる感じでドリブルするルカク。後方から戻って来た相手と、最初に競り合ったDFの2人を誘うように斜行しておいて、寄せてきたDFを切り返しでかわしてゴールへの最短距離をとる。さらに追いすがる相手を右手で制してシュートを決めた。
ゴールの過程では微妙にボールタッチをミスしているのだが、とにかく相手を寄せつけないので関係がない。ボールに足が届く範囲に相手を入れない。左利きのルカクが左足の前にボールを置き、相手の体の前に右手が入ったら、もうそこから相手は一歩も近づけないのだ。
この腕力と体の幅があるから、できるだけゴールに近い位置から動かない。CBが至近距離にいても、右手1本入ってしまえば強引に反転しながらシュートを打つ体勢を作れてしまうからだ。空中戦でも体をうまく使って自分の空間を確保していて、コンタクトの強さを最大限に生かしている。
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