プレミアリーグ今冬の移籍動向を専門家に聞く「1億ユーロ超の移籍金は少なくなりつつある」
プレミアリーグ移籍事情 前編
FIFAによると、2024-25シーズンの冬のトランスファーマーケットは過去最高の取引額を記録した。その主役を担ったマンチェスター・シティや、日本人選手が在籍するクラブが複数ある英国の最新事情について、世界最大の移籍情報サイト『Transfermarkt.com』の英国担当ステファン・ビエンコフスキ氏に話を伺った。ビッグディールから注目されている日本人選手、世界の市場の傾向などを、エキスパートはどう見ているのか。
今冬にマンチェスター・シティに加入したオマル・マルムシュ photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る
【今冬の移籍市場はマンチェスター・シティの独壇場】
――まずはプレミアリーグの今季の冬の移籍市場について、印象を聞かせてください。
「興味深いマーケットでした。主役はマンチェスター・シティ、というよりも彼らの独壇場と言ってもいいような市場でした。『Transfermarkt.com』にも掲載していますが、今冬の市場でシティの支出額は推定2億1800万ユーロでした(FWオマル・マルムシュ、MFニコ・ゴンサレス、DFアブドゥコディル・クサノフらを獲得)。次点のウルバーハンプトンの5000万ユーロ(DFエマニュエル・アグバドゥらを獲得)と比べても、4倍以上となりますし、支出がゼロだったクラブは7つもあります。
冬の移籍市場はもともと、シーズンの前半戦にうまくいかなかったチームが後半戦に修正する機会として捉えられていますが、今回はまさに前半戦で苦しんだシティが、かつてないほどの出費をしました。次点のウルブスは残留争いをしていますし、4875万ユーロを使ったブライトン(MFディエゴ・ゴメスらを獲得)も後半戦に巻き返して来季の欧州カップ戦の出場権を手にしたいところ。
3800万ユーロを費やしたアストン・ビラの動き(FWドニエル・マレンらを獲得し、FWマーカス・ラシュフォードやFWマルコ・アセンシオらをローンで迎えた)は、サウジアラビアのアル・ナスルに7700万ユーロでFWジョン・デュランが売れたからこそ、と言えるでしょう。イプスウィッチは降格圏内から抜け出すために、2610万ユーロを投じたと思われます(FWジェイデン・フィロジーンらを獲得)」
――今冬の世界全体の移籍金の最高額はそのデュランの推定7700万ユーロで、次点はマルムシュを獲得したシティがフランクフルトに支払った7500万ユーロでした。
「プレミアリーグのクラブは利益と持続可能性のルール(PSR)を守らなくてはならないため、以前のように巨額のオファーを出さない傾向にあります。例えば、レバークーゼンのフロリアン・ビルツには多くのビッグクラブが注目しているはずで、かつてなら1億5000万ユーロのオファーをするようなクラブがあったでしょう。でも今は、1億ユーロ超の移籍金は少なくなりつつある。今季は夏と冬を通じた最高額が、デュランですから」
1 / 3
著者プロフィール
井川洋一 (いがわ・よういち)
スポーツライター、編集者、翻訳者、コーディネーター。学生時代にニューヨークで写真を学び、現地の情報誌でキャリアを歩み始める。帰国後、『サッカーダイジェスト』で記者兼編集者を務める間に英『PA Sport』通信から誘われ、香港へ転職。『UEFA.com日本語版』の編集責任者を7年間務めた。欧州や南米、アフリカなど世界中に幅広いネットワークを持ち、現在は様々なメディアに寄稿する。1978年、福岡県生まれ。