レアル・マドリード恐るべし! キリアン・エムバペがついに機能し始めた (3ページ目)
【居場所を「探す」のでなく「作る」】
レアル・マドリードの難しさは、エムバペのようなスター中のスターであっても、チームのなかに居場所を見つけようとしてしまうことではないかと思う。
かつてバロンドールを受賞(1958年)したレイモン・コパが加入した際、ディ・ステファノとプレースタイルが被っていた。コパは右ウイングに回されたが、その後に来たブラジル代表の名手ジジは失意のうちにブラジルへ帰国している。こちらもディ・ステファノとまる被りだった。フェレンツ・プスカシュはプレーの比重をゴールゲッターに移すことでディ・ステファノとの共存を成功させた。エムバペとヴィニシウスの関係がこれに近いが、それよりもエムバペが本来のプレーを思い出したのが大きい。
エムバペは「9番」をやめた。前線に張るのではなく、自由に動いてボールを受けるようになる。センターバックを背負ってポスト役をやるタイプではなく、前を向いた時こそが無双なのだ。走りながらペナルティーエリアに突入してこそ、その速さと異常なまでの身体操作能力、シュートセンスが発揮される。そのためには9番然として前線に張ったら意味がない。
ある意味、エムバペが勝手気ままに前を向くべく動き始めると、逆に周囲が連動してまとまりがつくようになったから皮肉なものだ。エムバペが中盤に下りてパスを受け、捌き、前向きにスプリントするだけで相手守備陣は混乱をきたす。
アンバランスになった守備の隙にヴィニシウスやロドリゴが侵入し、ベリンガムが彼らの中継点として機能しはじめた。エムバペとヴィニシウスがサイドに流れても、ベリンガムがゴール前へ出ていける。下手に前線にフタをされているのとは違い、一気に流動性が増してスピード感が出てきた。
新参者のスターが、すでにいるスターたちに気を使うのではなく、自分のプレースタイルを貫くことで逆に連係がスムーズにいった。エムバペに期待されていたのはエムバペであることに違いなく、それが事態を好転させている。
C・ロナウド、クロース、ルカ・モドリッチにしても、自分の居場所を探しながら結局のところ居場所を作ってしまったわけで、チームの主役になるべき選手は、自分がチームに慣れるよりチームが主役に慣れたほうが早いということなのだろう。
著者プロフィール
西部謙司 (にしべ・けんじ)
1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。
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