久保建英、物議を醸すパフォーマンス だがその「憤激」がスーパーゴールを生んだ (2ページ目)
【激情が運まで引き寄せる】
怒りは暴発すれば、ただの暴力になってしまうし、冷静な判断を欠くことになる。しかし、紙一重のバランスで保つことができたら、巨大な武器になる。たとえばリオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドも「怒っている状態が一番怖い」と言われる。本能に導かれるまま、敵の度肝を抜くプレーができるからだ。
チームメートも、悪態をつくような姿にむしろ頼もしさを覚える。ゴール後、実力者であるマルティン・スビメンディ、人格者であるキャプテンのアリツ・エルストンドが、憤然とした様子の久保を追いかけ、ゴールを称える姿は印象的だった。高次元の信頼関係だ。
「仲良しこよし」は高いレベルのサッカーでは、一番の毒である。怒りこそ、張りぼての絆を粉々に打ち砕く。"ついてくるならついて来い"というハイレベルのリーダーシップで、恐ろしいほどの集中力だ。
それは信じられないことに、運まで引き寄せる。
得点シーン。久保が仕掛けたドリブルは相手の足に当たって、一度は弾んでいる。しかし、彼はそれを体ごと押し出す形で前に出られた。当たったボールがどこに転ぶか。その運命を含めて、彼は場を制していた。激情を持った選手のほうへ、ボールは不思議と転ぶ。そこからの一撃も簡単ではなかったが、集中力のおかげで軌道が見えていたはずだ。
「タケ(久保)のゴールパフォーマンス? 多くの選手たちがやるように、カメラに向かって、どこかの誰かに向けたメッセージだろう。誰に向けてだったかは、君たち記者が彼に聞くべきだ」
アルグアシル監督は歴戦の猛者だけに、軽やかに論争を避けている。選手の感情の爆発があってこそ、競争力も生まれるのを承知しているのだろう。指揮官は、選手の怒りを発動させるのがうまい。特に久保に関しては、わざと発奮させるように先発から外し、あるいは途中交代を命じ、爆発力を引き出してきた。
現在、ラ・レアルは舵取りが難しい局面にある。ロビン・ル・ノルマン、ミケル・メリーノというふたりの主力が移籍。守備の重鎮であるイゴール・スベルディアもケガで出遅れている。そして昨シーズンから懸案のストライカーも補強できていない。
2 / 3