メッシ、沈黙を破って敵にも審判にも噛みつきまくり。その変貌がアルゼンチンを奮い立たせる

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

 リオネル・メッシがいつもと違う。筆者はメッシのことを20年近く見てきたが、こんなメッシは初めてだ。審判にも、対戦相手にも、相手の監督にさえも、噛みつきまくっているのだ。

 アルゼンチンでは現在のメッシの状態を、スペイン語で「Enchufado」と表現している。これは「充電された、満タンに装填された」のような意味だ。今のメッシは心身ともにフルにチャージされている。中身は闘志でいっぱいで、それが怒りとなって噴出している。

 カタールW杯では初戦から、メッシの態度が明らかに違っていた。

 サウジアラビア戦で相手DFのアリ・アルブライヒにハードにマークされると苛立ち、サウジのベンチの選手たちから「メッシはどこだ」とヤジられると、怒りだした。確実に2、3回は冷静さを失っていた。

 メキシコ戦では試合後のアルゼンチンのロッカールームの動画が流出。勝利を祝う場面で、メッシは交換したメキシコの選手のユニフォームを床に捨て、足で蹴っていた。これを見たメキシコのボクサー、スーパーミドル級世界王者のサウル・カネロ・アルバレスが激怒し、しばらく"場外戦"が続いた。

クロアチアを破り、悲願のW杯優勝まであと1勝となったリオネル・メッシ(アルゼンチン)photo by JMPAクロアチアを破り、悲願のW杯優勝まであと1勝となったリオネル・メッシ(アルゼンチン)photo by JMPAこの記事に関連する写真を見る なかでもメッシが熱くなったのがオランダ戦だ。この試合は両チーム合わせてイエローカードが18枚も飛び交う荒れた試合となった。これまでだったらメッシは選手たちをなだめる側だったろう。しかし今回はメッシが主役だった。旧知のスペイン人審判マテウ・ラオスに詰め寄り、オランダのルイス・ファン・ハール監督に向かって手を耳の後ろに当て、馬鹿にするようなゼスチャーをしたのを、全世界が見ていた。

 彼は英語で「You talk too much(お前は喋りすぎるんだ)」と言い放つと、ファン・ハールは驚きの表情のまま固まっていた。なぜ相手の選手ではなく、監督を攻撃したのかについて、メッシは「彼からはリスペクトを感じられない」とだけ説明したが、ファン・ハールとメッシの間には以前から確執があった。

 ファン・ハールはかつて「バルセロナの危機の元凶はメッシ。リーダーなのにやるべきことをしない」と発言し、メッシはかなり根に持っていた。またバルセロナの監督時代にフアン・ロマン・リケルメを、マンチェスター・ユナイテッド監督時代にアンヘル・ディ・マリアを干したことも許せなかったようだ。実際、アルゼンチン人でファン・ハールを好きな者はいないのだが。

1 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る