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メッシ、沈黙を破って敵にも審判にも噛みつきまくり。その変貌がアルゼンチンを奮い立たせる (3ページ目)

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

【7歳の次男とかわした約束】

 メッシの変わりようは人々を驚かせており、顰蹙(ひんしゅく)も買っている。確かに褒められる行為ではないかもしれない。しかし同時に、アルゼンチンの原動力となっているのも事実だ。

 プレーでも、メッシがボールを持つたびに、シュートをするたびに、彼の闘志が感じられる。すべてのプレーに魂がこめられている。アルゼンチンが決勝までこれたのは、このメッシの変貌によるものだとまでは言わない。しかし、彼のみなぎる怒りは、チームにプラスアルファの力をもたらしている。

 アルゼンチンのサッカーというのはもともと、闘志をむき出しにしたものだ。相手チームと喧嘩をし、審判に抗議するのはお家芸ともいえる。ディエゴ・マラドーナを思い出せばそれはよくわかるだろう。逆に言えば、これまでのメッシだけが違っていたのだ。チームメイトやサポーターは、やっとメッシもアルゼンチンふうになったと喜んでいる。あのメッシがここまで闘志を剥き出しにしたという事実は、他の選手にも力を与えている。

 それにしても何がメッシを変えたのだろうか。それにはいくつかの理由がある。

 第一に、これが世界王者になれる最後のチャンスであること。第二にメッシはこれからの自分に不安を覚えていること。PSGとはあと2年契約(1年の延長オプションを含む)があるし、バルセロナからも復帰を誘われている。だが確実なものは何もない。ここで優勝をしておくのとそうでないのとではキャリアの終え方が違ってくるだろう。

 そしてもうひとつ、息子との約束だ。メッシ家3兄弟の次男マテオ君は今年で7歳。いろいろなことがわかってくる年齢だ。関係者によると、大会前、彼はメッシに聞いたそうだ。

「パパは世界一になったことがあるの?」
「いや、まだだ」
「じゃあ今回はなってよ」

 彼は息子にトロフィーを持って帰ると約束した。

 これらすべてを背負ったメッシは、もう間違えることはできない。メッシの怒りはそのまま勝利への強い気持ちだ。自然と湧き上がってきたものだ。メッシと同世代のスターたちはすでに、涙とともに最後のW杯を去っていった。残っているのはメッシだけだ。

 メッシが20年間抑えてきた怒りが今、W杯優勝に向けて爆発している。

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