「武骨」と「洗練」を繰り返しW杯4度優勝のドイツ代表。カタールでは強度重視のアドレナリン系プレースタイルに原点回帰 (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

今回は手堅い基盤へ原点回帰志向

 バイエルン&ボルシアMGの1970年代から80年代に入ると、当初の尖鋭的な特徴がなくなって基盤の守備の強さ、規律、闘争心が剥きだしになっていった。2000年にかつての技術レベルを取り戻すべく育成改革が始まり、それが移民系選手の増加につながったのはフランスやベルギーと同じである。

 2014年に ブラジルW杯で4回目の優勝を成し遂げたドイツはやはりバイエルン中心だったが、この時のバイエルンはジョゼップ・グアルディオラ監督が率いていて、いわばスペイン化していたバイエルンだ。1970年代もそうだったが、ブンデスリーガではむしろ特殊なプレースタイルである。代表の中心はバイエルンだが、バイエルンはドイツを代表していないのだ。

 カタールW杯に臨むドイツは、ヨアヒム・レーブ監督時代の、スペイン化したドイツからの揺り戻しが起きている。相変わらずバイエルン勢は多いのだが、ハンジ・フリック監督はハイプレスを軸とした強度の高いプレースタイルを志向していて、言わばスペイン化からの解放を行なっている。現在のブンデスリーガをより反映した戦い方とも言える。

 GKを組み込んだ自陣からビルドアップで、相手のハイプレスを無効化するのは従来の流れを継承しているが、よりダイレクトな攻め込みと、その後のハイプレスでの即時奪回こそが狙いだ。

 かつてのクロースやエジルのような「マイスター」のタイプはいないが、原点である強度を重視したアドレナリン系のプレースタイルにはなっている。バイエルン勢中心だけれども、かつてのボルシアMGを源流とするスタイルと言っていいかもしれない。

 ただ、攻め込みはやや強引さが目立ち、ハイクロスを多用するわりには高さのあるFWがカイ・ハフェルツだけという懸念材料はある。アイデアとテクニックで変化をつける選手として、若手のジャマル・ムシアラが期待されているが応えられるかどうか。フランクフルトで復活し、本大会のメンバー候補に入ったマリオ・ゲッツェが案外キーマンになるかもしれない。

 手堅い基盤に何らかの特殊性や異質な要素が加わった時に最強化していたドイツだが、それからすると今回は原点回帰の、とくに異質さのないドイツだ。

 その点で、5回目の優勝は難しそうだが、基盤だけでも上位に進出できる力があるのは、これまで何度も証明してきたとおりである。

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