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「平地のほうが実績はあるんですけどね」"山の名探偵"早稲田大・工藤慎作が挑む初マラソンと最後の箱根駅伝

  • 和田悟志●取材・文 text by Satoshi Wada

平地での走力を磨き続けている早大・工藤慎作(写真は昨年の全日本大学駅伝8区) photo by Satoshi Wada平地での走力を磨き続けている早大・工藤慎作(写真は昨年の全日本大学駅伝8区) photo by Satoshi Wada

後編:工藤慎作(早大)が挑む己との戦い

2026年の第102回箱根駅伝で3度目の5区に出走した工藤慎作(早稲田大・3年)は自身の走りに異変を感じながらも一時は先頭を奪った。最終的には黒田朝日(青学大・4年)の驚異的な走りに往路優勝を奪われたが、工藤が磨き続けているのは「平地での走力」。大学3年目のシーズンはハーフマラソンで実績を挙げ、全日本大学駅伝8区でも30年ぶりに日本人最高記録を塗り替えた。
3月1日の東京マラソンでは初のフルマラソンに挑戦。自身の走力を磨きつつ、最後の箱根駅伝でも山上りの役割を担いつつ、チームの総合優勝を目指していくつもりだ。

前編〉〉〉工藤慎作(早大)が振り返る3度目の箱根5区と黒田朝日との距離感

【全日本8区激走の反動】

 2025年の第101回箱根駅伝で5区2位と快走した工藤には"山の名探偵"のニックネームがすっかり定着した。工藤慎作(3年)が山の名手であることは間違いない。だが、山だけの選手ではないことも確かだ。

「"山の神"って言われる人たちに比べると、上り自体の適性は、自分はちょっと怪しいところがあります。でも、その神と呼ばれた方々と違うのは、平地の走力だと思います」

 歴代の"山の神"ももちろん平地でも強かったが、工藤は平地の走りに自信を口にしていた。

「世間一般には"山の名探偵"って言われますし、声をかけられる時も"山の人"みたいになっています。でも、明らかに平地のほうが実績はあるんですけどね」

 実際に、工藤の箱根5区へのアプローチは、山に特化したトレーニングを積むのではない。マラソン挑戦をも見据えて、走力を磨き上げて箱根の山に挑んできた。そして、2025年は平地のレースで数々の偉業を打ち立ててきた。

 2月の日本学生ハーフマラソン選手権(香川・丸亀国際ハーフマラソンと併催)では、淡々とマイペースを刻み、日本人学生歴代2位となる1時間00分06秒の好記録で学生日本一に輝いた。

 そして7月、大学生の世界大会であるワールドユニバーシティゲームズでは、1カ月前に練習ができなかった期間があったにもかかわらず、5km前から独走し、1時間02分29秒の大会新記録を打ち立てて金メダルを獲得した。

 さらには、11月の全日本大学駅伝では最終8区でハイペースを刻み、早大OBの渡辺康幸さんが持っていた8区の日本人最高記録を30年ぶりに5秒上回り(56分54秒)、区間賞を獲得した。

 このように、平地のロードレースでも圧巻のパフォーマンスを続けてきた。

 しかし、全日本での快走の反動は思いのほか大きかった。

「11月中は練習があまりよくなかった。5区を想定した上りの練習もうまく走れず、マイナスな気持ちになっていたこともありました」

 そんな工藤を見かねたのか、駅伝主将の山口智規(4年)から冗談めかして「俺が5区をやるよ」と言われたこともあったという。

 11月下旬から12月中旬にかけてようやく調子を取り戻しつつあったが、箱根まで10日を切って、再び不調に陥ってしまった。

「調子が上がらないというか、むしろかなり悪化してしまった。1週間前くらいからの練習は全部外していました」

 本番が近づき、調子を上げていかなければならないのに、うまく練習をこなすことができなかった。

「中強度、高強度の練習では、マラソンを意識して少し量を増やしていました。ものすごく多かったわけではないんですけど、それに耐えうる体が作れていなかったのかな。それに、全日本の疲労もあって、細かい調子の波をうまく作れていなかったのだと思います」

 不調の要因を工藤はこう分析していた。

「急に調子が上がるわけではないので、疲労を抜いていってごまかそうと思いましたが、当日にも多少は響いてしまいました」

 こうして3回目の箱根は、不安を残したまま、臨むことになった。

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著者プロフィール

  • 和田悟志

    和田悟志 (わだ・さとし)

    1980年生まれ、福島県出身。大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。その後、出版社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やDoスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆をしている。

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