カタールW杯はジャッジにも新潮流。最新テクノロジーと、審判に求められる能力

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

 カタールW杯は「史上最も小さなW杯」と呼ばれている。カタールはこれまでの開催国のなかで一番小さな国だし、コロナの影響もあって、サポーターや記者の数もかなり少なくなると予想されるからだ。

 そんな小さなW杯のなかで、大幅に数が増えているものがある。それが審判団だ。今回、審判団は史上最高の129人という大所帯となった。その理由ははっきりしている。ジャッジに最新テクノロジーを駆使するため、それに関わる人員が大幅に増やされたからだ。

日本から唯一、カタールW杯の審判に選ばれた山下良美さんphoto by Masashi Hara/Getty Image日本から唯一、カタールW杯の審判に選ばれた山下良美さんphoto by Masashi Hara/Getty Imageこの記事に関連する写真を見る これまではVARを担当するのに特別な資格は必要なかったが、今大会からはVMO(ビデオ・マッチ・オフィシャル)と呼ばれる専門職となる。彼らは少なくとも2年間、自国の1部リーグで定期的に審判をし、VMOとして少なくとも15試合の審判をした経験がなければならない。

 ボールがゴールラインを割ると、審判に自動的に知らせるGLT(ゴールラインテクノロジー)はブラジルW杯から、VARはロシアW杯から投入されていたが、今大会はそれに加えて、オフサイドを感知する新システムが取り入れられる。このシステムはSAOT(セミオートメーテッドオフサイド・テクノロジー)と呼ばれ、GLTと同様に、オフサイドがあるとビデオオペレーションルームに知らせる仕組みになっている。

 カタールW杯の公式球アル・リフラにはボールの中心にチップが埋めこまれており、1秒間に500回、自分の正確な位置を送信する。一方、スタジアムの屋根の下には12台の8Kカメラが設置されていて、このカメラは1秒間に50回、選手一人ひとりの体の29カ所の部分を感知し、各選手の位置を正確に把握する。

 このふたつのデータを組み合わせ、AIがオフサイドと判断したらオペレーションルームに連絡がいくのだが、それだけではジャッジはしない。VMOはすぐにボールと選手の位置を実際に自分たちで確認し、オフサイドであればピッチの審判に伝えるのだ。だからセミオート(半自動)なのだ。

 VARにはこれまで多くの批判が寄せられてきた。その一番の理由は時間がかかりすぎるというものだった。オフサイドの判定を下すために試合を止め、映像を確認すると、平均で70から75秒かかり、試合の流れが変わってしまうというのだ。

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