マンUを買収した「ビリオネア」がサッカー界にもたらした功罪 (3ページ目)

  • ジェームス・モンターギュ●取材・文 text by James Montague 井川洋一●訳 translation by Yoichi Igawa

 バックスで成功を収めたことより、グレイザー家はマンチェスター・ユナイテッドを「現実的に買収できるもの」と考えるようになった。ジョエルとアブラムは大のサッカーファンであり、このクラブの世界的な名声はどのスポーツクラブよりも高いと確信していた。そして、その価値は実質よりも低く見積もられている、とも。

 実は、オーストラリア人の"メディア王"ルパート・マードックも同じような考えを持っていた。1999年にユナイテッドの買収を試み、6億2340万ポンド(当時のレートで約1160億円)で合意に至りかけたが、英国政府の独占および合併委員会が却下。マードックが携わるフットボールの放映ビジネスとの利害関係が、適切でないと判断されたのである。

 それに対し、グレイザー家はユナイテッドの株を密かに買い集めていたが、彼らを買収に導いたのは一頭の馬に関する"いざこざ"だった。

 ユナイテッドの株を約29%所有していたジョン・マグナーとJ・P・マクマナスは、当時の同クラブを率いていたアレックス・ファーガソンと共同で、名馬ロック・オブ・ジブラルタルを保有していた。ところが、ファーガソンが種牡馬の権利についてほかの共同オーナーたちと揉めたことで、2人のユナイテッドのフロント内での立ち位置もゆらぎ、株を売りに出すことになる。そこで手を挙げたのが、グレイザー家だったのである。

 過半数の株を手にしたグレイザーは『レッド・フットボール株式会社』を立ち上げ、クラブの運営に着手──ただし彼らはこの買収に際しても、ほとんど自分たちの懐を痛めていない。

 その手法はレバレッジド・バイアウト(LBO)と呼ばれるもので、買収先を担保に資金を借り入れるというものだ(買収額は7億9000万ポンド=当時のレートで約1580億円)。つまり、ユナイテッドそのものに借金を背負わせ、それをユナイテッドの利益によって返済していくのである。これを知った地元のメディアやサポーターは強い不満を示し、グレイザー家の経営に反対するサポーターの有志でFCユナイテッド・オブ・マンチェスター(現プレミアリーグ6部)というクラブを設立する事態にまで発展した。

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