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誰もがハダースフィールドを愛している (5ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 彼らの父親世代のなかには、1920年代のクラブの黄金期を知る人もいた。しかし彼ら4人がファンになった50年代には、クラブも地元の繊維業も衰退していた。

 少年のころ、彼らは古いスタジアムの数万人の観客のなかにいた。多くの男たちが平たいキャップをかぶり、ほとんどがたばこを吸い、ほぼ全員が立ったまま観戦していた。スタジアムのトイレは屋外にあって屋根がなかったから、長靴をはいていったほうがいいくらいだった。

 4人は10代のとき、ほかの男の子たちとスタンドで飛び跳ねていた。その子たちは大人になってからスタジアムに来なくなったが、4人は彼らの名前を今も覚えている。

 何十年も前にアウェーの試合に出かけたときのことも覚えている。ひとりが1972年にクリスタル・パレスと対戦したハダースフィールドのメンバーを、すらすらとそらんじた。

 数十年にわたり、彼らは仕事と家族のことで忙しく過ごしてきた。週末にはクリケットをやったり、子どもを乗馬クラブに連れていったりした。しかしどこへ行っても──イングランドでも外国でも──彼らはハダースフィールドとともにあった。テレビで試合を見られるときには、欠かさず見た。

 クラブをサポートすることで、彼らは過ぎ去った子ども時代や、今は亡き親たちとの結びつきを取り戻していた。あまり取り柄のない故郷の町への思いも忘れずにいた。

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