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2000年生まれのユベントスのFW、
モイゼ・ケアンはアンリ級の黒豹か (4ページ目)

  • 井川洋一●文 text by Igawa Yoichi
  • photo by Getty Images

 ここまで、トップレベルの試合は20分未満しか経験していないものの、その2試合では才能の片鱗を見せた。一瞬でギアを上げられるスピードと、年齢にそぐわないフィジカルが最大の長所と言えそうだが、ライオラやアッレグリ監督が特に感心するのは、このスポーツに心身を捧げる固い意志にある。兄のジョバンニよると、それは幼少期のつらい日々が育んだものだという。

 弟がチャンピオンズリーグにデビューした際に感動して涙を流した兄は、「父は僕らを捨てて、よそに自分の家族を作った」と『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙に語っている。「母は看護師で、僕らを育ててくれたけど、モイゼは午後にひとりぼっちでいることが多かった。そんな時、カルチョが彼を救ってくれたんだ」。

 地元の小さな礼拝堂の壁に向かってひたすらボールを蹴り続けた少年が、イタリア随一の名門クラブの厳格な指導を受けて、特大の才能を開花させようとしている。「弟は(ティエリ・)アンリのような黒豹だ。戦う姿勢は(カルロス・)テベスを想起させる」と間近で見てきた兄が表現する超新星は、どこまでの選手になるだろうか。

「(マリオ・)バロテッリも彼のアイドルだったけど、プレースタイルは違う。モイゼには犠牲精神がある。それがユーベの教えでもあるから」

 新たなパンサーの四肢はイタリアの地をしかと踏み、両目はじっと高みを見据えている。

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