ACLを戦うフィリピン王者の日本人監督 選手全員分の牛丼をテイクアウトするのも大事なミッション (3ページ目)
【「フィリピン人にしか見えない」】
ACLで星出はフィリピン人の爆発力を引き出したわけだが、"一丸となって戦った"という日本的美談があったわけでもない。
横浜FM戦はホームで1-2と健闘したが、試合前の軽食をとる場所への経路がめちゃくちゃで、向かうルートは恐ろしく渋滞していた。提携のレストランで安上がりになるから向かったのだというが、計画性はない。軽食中にバスの運転手も戻って来られなくなり、急遽タクシーアプリで配車し、先発組から4、5人ずつ乗り込んでスタジアムへ。ウォーミングアップもろくにできずに試合に挑んだ。
「もうちょっと普通に戦えていたらって思いますよね」
星出はそう言って笑い飛ばした。一事が万事、この調子である。それでも彼はフィリピン人を、フィリピンのサッカーを面白いと感じている。
「フィリピンサッカーの歴史を作ろう!」
ロッカールームで言葉をかけると、選手たちは熱く反応する。彼も意気に感じる。基本は英語だが、タガログ語も話せるだけに、コミュニケーションに問題はない。
「フィリピン代表監督にならないの?」
リーグ優勝チーム監督として、周りにそう言われることも多くなった。あるJリーグのチームからも打診があったという。しかし、彼はプランを立てていない。それがフィリピン流だ。
カヤFCは今シーズンもACL2を戦っている。第1戦はホームでシンガポールのタンピネス・ローバーズに0-3で敗れたが、第2戦の韓国遠征を前にひと悶着があった。登録メンバーは25人だが、19人しか連れて行けないという。経費を安く抑えるためだ。
「それが普通なので、麻痺しているかもしれません。最近は周りに『フィリピン人にしか見えない』と言われますね」
星出はまんざらでもなさそうだった。
著者プロフィール

小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
フォトギャラリーを見る
3 / 3







