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サッカー日本代表はブラジル戦勝利に浮かれている余裕なし 勢いを失っている看板選手たち

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

連載第64回
杉山茂樹の「看過できない」

 日本代表の二枚看板といえば三笘薫と久保建英だ。ブライトンの左ウイングとレアル・ソシエダの右ウイングである。右肩上がりを続ける日本サッカーを象徴する、まさに看板選手。7カ月後に迫ったワールドカップ本番には不可欠な選手である。

 9月のアメリカ遠征にはふたりとも参加したが、10月のパラグアイ戦、ブラジル戦では三笘が外れた。そして11月のガーナ戦(14日)、ボリビア戦(18日)には、ふたり揃って欠席しそうな状況にある。三笘に続き、久保も故障が判明したからだ。

ブライトンでもベンチ外が続いている三笘薫 photo by Sano Miki ブライトンでもベンチ外が続いている三笘薫 photo by Sano Miki  久保はもともと左足首に痛みを抱えていた。10月の代表戦にはそれを堪えて参加した。出場はブラジル戦の54分間に限られたが、サン・セバスティアンに戻るやケガがより悪化していることが判明。以降の3試合、ベンチ入りしていない。

 日本協会の要請に従い、おそらくは渋々送り出したらこの有様である。レアル・ソシエダにとってこの事態は、迷惑極まりない話だろう。だが日本の一部メディアは、同チームのセルヒオ・フランシスコ監督の「日本代表に送り出すのは当然」というコメントを引き出し、招集の正統性をしきりに強調した。

 ブラジル戦で久保がベンチに下がったのは後半9分なので、同点に追いついたシーン、逆転に成功したシーンには立ち会っていない。久保がその逆転劇にどれほど貢献したか微妙なところだが、出来映えとしては及第点がつけられるものだった。健在ぶりをアピールした。だが、ケガをおしてまで出場する必要があったのか。筆者はノーだと考える。

 ブラジル戦はあくまでも親善試合。本番ではない。だがメディアはその点を強調しない。日本代表のホーム戦は、サッカー産業にとってまたとない興行の場であるからだ。便乗したいとの思惑は、目の前の勝利を欲し、ベストメンバーで臨もうとする日本代表監督の姿と重なる。

 親善試合においてホーム戦の割合がほとんどを占める日本の特殊事情がこれに拍車をかける。森保一監督が先を見越した計画的強化を忘れ、守備的なサッカーで勝利至上主義に走る理由である。ブラジル戦の勝利はその産物と言うべきである。

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著者プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

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