ACLを戦うフィリピン王者の日本人監督 選手全員分の牛丼をテイクアウトするのも大事なミッション (2ページ目)
【「お父さんの誕生日だから試合に行けない」】
「どこでも苦労はあるはずで、どの大変さを選ぶか、だと思っています」
星出は言う。それは彼の信条だろう。フィリピンにやってきたのは選手時代で、面食らうこともあった。しかし、性に合っていたのだ。
フィリピンは何事にもルーズで、気分が先行する。明日の予定を、「明日になったら、いいアイデアが浮かぶかも」とする場当たり主義だという。リーグ開幕日程もなかなか決まらず、毎年、1カ月単位で変わるから準備のしようがない。「プランはあってもないものだ」と割りきらないと、ストレスになる。東南アジア、フィリピン的なモラルだ。
「フィリピン人は家族を大事にするのはいいことなんですが......先日、アシスタントコーチが『お父さんの誕生日だから試合に行けない』って言うんですよ。もう、爽やかに『ハッピーバースデー』って帰しました(笑)」
星出はそう言って、楽しそうにエピソードを明かす。
「キャプテンの選手は、プレシーズン中なのに『香港にプレミアリーグのチームが来るし、ついでに彼女と観光旅行に行ってきます』と言ってきて、『気をつけて』って伝えました。ただ、彼は『実家に行く』と言っておきながら、嘘をついて彼女とビーチに行っていたこともあったので、さすがにキャプテンは外しました(笑)」
大らかさのなか、どう生きていくか。日本人の感覚のままだと、苦しむこともあるだろう。しかしフィリピン人と同化していくと、面白いものも見えてきた。
敵地での広島戦では、星出は実力差を考えて守りを固めて戦って健闘した(結果は0-3と黒星)。しかし、選手たちが「次はつなげて勝負したい」と自発的に言うので、彼らのことを信じると、ホームでは見事に1点を先制し、優勢に戦った。結局、ケガ人が外に出ているのに気づかないすきに1点を失うことになったが、引き分けで貴重な勝ち点1を得た。それは歴史的な快挙だ。
「フィリピンはプロリーグがなくて(2017年にスタート)、育成システムもなかったので、ストリートでやっている野生的な選手が集まっているんですよ。だから身体的な強さはあるんですが、戦術理解などは乏しい選手もいて、そこは高校生を指導する感覚でやっていますね。ただ、彼らが面白いのはピッチでは自然にスイッチが入るところで、バチバチにやります!」
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